有川 浩 01

塩の街

wish on my precious

2011/02/16

 有川浩さんのデビュー作である本作の初版は、電撃文庫より刊行されている。あとがきで、有川浩さんはこう述べている。大人にもライトノベルが欲しいと思って作家になりましたが、このお話は最も純粋にライトノベルだったと思います、と。

 世界は塩害に見舞われ、街は塩に飲み込まれようとしていた。原因不明の人体の塩化現象により、1人また1人と塩の柱になっていく。国家としてのシステムが崩壊した東京で、ひっそりと暮らす男と少女、秋庭と真奈。2人もいつ塩化するかわからない。

 Scene-1、群馬から歩いてきた男は、秋庭たちに頼む。きれいな海に行きたい。哀しくも美しい真相に、柄にもなく胸を打たれた。Scene-2、脱走してきた囚人が2人のささやかな生活を乱す。彼の話はその後の伏線でもある。真奈の身の上が語られるScene-3。この非常時だ、誰だって自分がかわいい。前半までは、連作短編集のような構成である。

 後半に入って早々、ある来客が2人きりの生活を終わらせる。秋庭にも、無下に追い返せない事情があった。その男、入江が語る塩害のメカニズムは、なるほど盲点だった。だが、その解明のために…。必要悪と割り切る入江に、真奈は絶句する。

 歳の離れた真奈と秋庭が、互いに好意を寄せていることは察せられるのだが、状況が状況だけになかなか距離が縮まない。崩壊寸前の世界で、2人のラブロマンスにどう決着をつけるのだ? 真奈の背中を押したのは…。うーむ、意外というか強引というか。

 本作は、メディアワークスからハードカバー化される際に番外編4編が追加収録され、角川文庫版もハードカバーに基づいている。本編には登場しなかった人物や、本編の脇役にスポットを当てていて興味深い。憎い演出もある。でも、やっぱり入江は嫌な奴だ。

 第10回電撃ゲーム小説大賞受賞時の担当編集者によると、大人に向けたパッケージで小説を作ってみたいという欲求があったらしい。本作はライトノベルか否か。それは大した問題ではないのではないか。単なる恋愛物だったら、きっと読み通せなかった。



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