有川 浩 08


図書館危機


2011/06/03

 シリーズ第3弾。『図書館危機』というタイトルから、危機また危機という展開を予想していたが、それほどでもなかった? いや、十分に危機なのだが。

 一、王子様、卒業。前作ラストで、衝撃の事実を知ってしまった郁。しばらく尾を引くのかと思ったら…。郁の事情を描く一方、武蔵野第一図書館で痴漢が発生。被害者があの彼女だっただけに、怒り心頭の隊員たち。しかし、あまりにも情けない犯人像にとほほ。最後の小牧の一言がすべてを物語る。ごちそうさまでした、はい。

 二、昇任試験、来たる。郁と手塚にもそういう時期が訪れた。読みどころは優等生である手塚の狼狽ぶりだろう。筆記はまったく問題ない手塚だが、この年の実技はよりによって…。うーむ、初めて手塚に共感できたよ。一方、郁は筆記はボーダーぎりぎりだが、実技の方はどんと来い。なるほど、これは感心させられる。

 三、ねじれたコトバ。本作中最も印象に残った。人気俳優の特集本を手がけることになった世相社。ところが、ゲラの確認段階で強い抗議が…。この「言葉」の何が問題なのか? あとがきによると、実際に指定されているというから呆れる。事態を打開するためのウルトラCとは。メディア良化委員会に一泡吹かせたという点で溜飲が下がる1編。

 四、里帰り、勃発――茨城県展警備――。郁たち図書特殊部隊が、茨城に派遣されることになった。というのも、その年の茨城県展の最優秀作品が…。さらに、茨城は郁の地元だった。茨城県立図書館に行ってみると、歪んだ事情が次々と明らかに。実にわかりやすい嫌がらせの数々。負けるもんか。だけど涙が出ちゃう、女の子だもん。

 四に続くクライマックス、五、図書館は誰がために。一応サブタイトルは伏せます。いよいよ茨城県展初日。郁にとっては初めての大規模戦闘で、流される多くの血。それでも、保身に走る輩より、汚れ役の図書特殊部隊は高潔だ。読書好きの端くれとして、そう信じたい。茨城の今後が思いやられる。そして、ある重要人物は決断した。

 恋模様も含めてたっぷり楽しめたが、あの男があまり動かないのが何とも不気味ではないか。最終巻『図書館革命』では、諸々にどのような決着が図られるのか。



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