有川 浩 10 | ||
阪急電車 |
関西にはちょくちょく出かけるため、阪急のチョコレート色の車両は見慣れている。阪急は梅田を基点とした3つの主要路線(京都線・神戸線・宝塚線)以外に、多数の支線を抱えている。本作の舞台は、そんな支線の1つ、今津線である。
本作冒頭によると、宝塚駅では、梅田方面に向かう宝塚線と神戸線の西宮北口駅に向かう今津線が『人』の形に合流している。宝塚駅から西宮北口駅までは8駅で、片道はわずか15分ほど。この短い路線で、様々な人間模様が交錯するという趣向である。
宝塚駅。恋(?)のきっかけは、窓の外にあった。宝塚南口駅。元彼の新郎と寝取った新婦に強烈な仕返しをしたけれど…。逆瀬川駅。人生経験豊富で凛としたおばあさんの言葉は重い。小林駅。いい駅とはどんな駅だろう。なるほどいい駅だ。仁川駅。またしてもおばあさんの言葉がガツンと炸裂。甲東園駅。アホすぎるえっちゃんの彼氏だけれど…。門戸厄神駅。恋(?)のきっかけは…何だか「宝塚駅」とパターンが同じだな。
それぞれの思いを乗せて、西宮北口駅到着。そして折り返し。
西宮北口駅。呆れるおばさん集団の振る舞い。すごいコントロールだな。門戸厄神駅。しかし、そんな集団で人知れず悩む人がいた。甲東園駅。ああプラトニック。仁川駅。ああプラトニック。小林駅。たくましく子供社会を生き抜くのだ。縁は奇なり。逆瀬川駅。おばさん集団アゲイン。そこにあのおばあちゃんが…。宝塚南口駅。ああプラトニック。
そして宝塚駅。中には嫌な人間もいたけれど、ああ最後までプラトニック。
宝塚駅を出発後、互いに影響し合った人物たち。後日西宮北口駅から折り返すときには、それぞれに決断し、人生の転機を迎えている点に注目したい。そして宝塚駅への帰路(?)でも影響し合い、また新たな人物に影響を及ぼす。絡ませ方が実にうまい。
本作は、すし詰めの主要路線では成り立たない物語である。のんびりムードが漂う今津線が舞台であることが、不思議と必然であるように思えてくる。