有川 浩 14


三匹のおっさん


2012/03/13

 恋模様が欠かせない有川浩作品だが、どちらかといえば若者向けと認識していた。ところが、本作の中心人物は、還暦を迎えた3人のおっさんだという。

 会社を定年退職した剣道の達人、キヨこと清一。経営する飲食店を息子夫婦に任せた柔道の達人、シゲこと重雄。2人のように腕っ節は強くないが頭脳派、実は最も恐ろしいノリこと則夫。かつての悪ガキトリオが自警団を結成し、ご近所に潜む悪を斬るっ!!!!!

 何といっても、キヨ、シゲ、ノリの3人がかっこいいのである。僕やそこいらの若者よりはるかにバイタリティがある。一方で、年の功も身につけている。

 本作に痛快活劇という側面はもちろんあるし、実際胸がすっとしたが、そこは有川浩作品、決して単純ではない。3人が裁く事件は現実に耳にするものばかりなので、読むのが辛い展開も多いし、すっきりとした顛末ばかりでもない。3人の家庭事情も絡んでくる。

 第一話。生意気盛りなキヨの孫の祐希。第一印象は最悪だろう。だが、祐希が巻き込まれた事件をきっかけに、キヨたちを見る目が一変する。憎まれ口を利いているようで慕っているのは明らか。祐希がキヨにファッションを指南するのも面白い。

 第二話。近所で続発する痴漢、強姦未遂。その魔の手が遂に…。捕まえてみればあまりにも呆れると同時に、許しがたい。第三話。唯一家庭に問題がなさそうなシゲだが…。昨今は熟年離婚が多いというが、シゲの懐の深さなら大丈夫だろう。

 第四話。祐希の母校の中学校で発生した事件。有耶無耶にする学校側に暗澹たる気分になるが、最後の意外な展開に救われる。最も胸が痛い第五話。このじれったさが、有川作品だね。自業自得なのに力を貸してくれる3人は優しい。最後の第六話は、ありふれた話だけに腹立たしい。実力行使に出ても解決しないことを、3人はわかっている。

 今月末には続編の『三匹のおっさん ふたたび』が刊行される。3人の活躍はもちろん、祐希の恋模様も大いに気になるところ。近所付き合いが希薄な現在、3人が実在したら煙たがられるかもしれない。それでも、おっさんたちの奮闘に拍手を送りたい。



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