有川 浩 16


フリーター、家を買う。


2012/08/10

 大人のライトノベルを標榜する有川浩作品だが、内容は全然ライトではなく、ヘビーな描写も少なくない。文庫化を機に手に取った本作は、中でも超ヘビー級ではないか?

 何とか内定を得た会社を入社3ヵ月で辞めてしまい、親の脛を齧ってニート同然に暮らす、武誠治25歳。当然バイトも長続きしない。これだけならどこにでも転がっていそうな設定である。ところが、誠治は母・寿美子の病に直面することになる。

 最初に気づいたのは、結婚して家を出ている姉の亜矢子だった。嫁ぎ先の名古屋から乗り込んできた亜矢子は、誠治と父・誠一を激しく詰る。そもそもの発端。こうなった経緯。誠治も誠一も寝耳に水だが、理路整然とした亜矢子に反論する余地はない。

 最初の章からぐったりさせられるが、乗り切った先には有川浩作品らしい安心があるので、どうか投げ出さないでほしい。この後の展開に、どうしても1章は必要だったことが、最後まで読めばわかるだろう。誠治は自らを恥じ、一念発起して立ち上がる。

 就職活動と並行して、工事現場のバイトを始める誠治。すぐ音を上げる者も多い中、長続きする誠治は、職場のおっさんたちとも次第に溶け込み、家庭の事情も打ち明ける。このバイトが誠治の大きな転機になっていくのだが、詳細はもちろん明かせない。

 気がつけば、ぐうたら息子だった誠治はすっかり逞しく、眩しく見える。母を気遣い、仕事にもやりがいを感じている。挫折を経験した誠治だからわかることがある。そして、序盤ではすっかり悪者扱いだった父・誠一を見る目も自然と変わってくるだろう。現場のおっさんたちも、誠一も、伊達に年齢を重ねているわけではない。学ぶことは多い。

 単行本版あとがきによれば、誠治の人物造には有川さんご自身の経験が重なる部分もあるという。誠治も、そういうことを正直に書ける有川さんも、強いと思う。僕が今、就活に励む学生だったとして、果たして内定が取れるかどうか、怪しいものだ。

 全体的には誠治の成長記であり、家族の再生の物語である。予定調和だっていいじゃない。あんなことやこんなことに触れられないのがもどかしい。またしてもやられたな。



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