有川 浩 17


シアター!


2011/06/24

 観劇に行き、大量のチラシをもらう度に思う。何と多くの劇団がひしめいていることか。キャラメルボックスや新感線などのメジャーな劇団以外は、集客にも苦労する。役者だけでは食べていけない。バイトに励みつつ、好きだという気持ちを支えに活動している。

 300万円の負債を抱え、解散危機に陥った「シアターフラッグ」も、そんな劇団の一つ。主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は金を出す代わりに条件を突きつけた。曰く、2年間で劇団の収益から300万円を返せ。できなかったら劇団を潰せ。

 金の出入りは鉄血宰相・春川司に徹底チェックされる。固定ファンも多いシアターフラッグだが、万事にどんぶり勘定なのであった。手始めに、衣装やセットに金のかからない台本を書くことを巧に指示する司。楽しくできればよかったという一部の団員からは反発を買う。しかし、司は普通の会社ならどこでもやっていることをしているに過ぎない。

 いじめられっ子だった巧が自らの居場所を見つけたのは、演劇と出会ってから。以来演劇に没頭して現在に至る。売れない役者だった父のように。巧に演劇をやめてほしい司だが、才能は認めている。巧のような資質がないことに、複雑な心理ものぞかせる。

 プロの声優でもある羽田千歳の入団が、劇団内に色々と波紋を呼ぶ。有川浩作品にはお約束の人間模様、今回もてんこ盛りである。声優としてはプロだが、役者としては駆け出しの千歳も悩む。司は司で、千歳の知名度は徹底的に活用しようとする。

 司の言葉には、刺があるようで愛情が感じられる。巧にも、団員にも、それが伝わったのだろう。最後には一致団結して初日を迎える。有川浩さんらしい、ストレートでわかりやすい作品だ。シアターフラッグの人気の一因はわかりやすさだという。小説もそうだが、わかりやすい作品ほど高く評価されないものだ。わかりやすくて何が悪いというのか?

 本作は、実在の劇団「Theatre劇団子(シアトルげきだんご)」をモデルに書かれたそうだが、そのTheatre劇団子によって『もう一つのシアター!』として舞台化された。夢を追い続ける若者たちに幸あれ。司ほど優秀ではないサラリーマンのおっさんより。



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