有川 浩 18


キケン


2013/07/02

 偏差値そこそこなごく普通の工科大学、成南電気工科大学には、伝説のサークルがあった。正式名称「機械制御研究部」、略して【キケン】。そう、上野部長と大神副部長に率いられたこの集団は、冗談じゃなく「危険」なのである。

 第1話を読み終えると、本作が回想形式であることに気づく。卒業から10年後。彼は妻にねだられ、キケンの数々のエピソードを思い起こす。

 第1話は、語り部の彼がキケンに勧誘され、正式加入するまでを描いている。自宅の母屋への立ち入りが厳禁されているという上野部長。おいおい…。そのデモンストレーションを見ても加入を決めた1回生は肝が据わっている…。

 第2話は唯一の恋愛エピソード。「悲劇」とある通り、大神の失恋話とだけ書いておきましょう。我が母校の工学部もそうだったが、限りなく男子校に近い工科大学だけに、恋愛に不器用な面々。痛たたたたた…。理系なら共感できるだろう。

 第3話と第4話は一続きである。大学祭は学生生活の花。キケンが出店する模擬店は本気度が違う。有名ラーメン店も驚く、24時間体制のオペレーション。味だって本物だ。『奇跡の味』食いてぇぇぇぇぇ!!!!! 一応ライバルらしいPC研は気の毒なほどに脇役…。

 第5話。渋々出場させられた県主催のロボット相撲大会。全国レベルでも上位を争うキケンは、やると決めたらとことんやる。わははははは、すげぇぇぇぇぇ!!!!! 見てぇぇぇぇぇ!!!!! そして最終話。好奇心がエスカレートした末に…ふと我に返る面々。踏みとどまってよかったね…。そして、彼は妻に背中を押され、重い腰を上げるのだった。

 読み終えて、キケンの暴走が物足りないような、これでよかったような複雑な気分になる。きっと、彼には書き切れないほどの思い出がある。もうあの頃には戻れないことが寂しくてしかたないのだ。それだけに、最後の演出はずるいなあ。

 学生時代、サークル活動に没頭していた読者なら、当時を思い出し、懐かしむだろう。この僕も。キケンのOBたちは、各地で活躍しているに違いない。



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