有川 浩 23


ヒア・カムズ・ザ・サン


2011/11/28

 本作冒頭の文章は、元々は演劇集団キャラメルボックスの舞台『ヒア・カムズ・ザ・サン』のあらすじである。このわずか7行のあらすじを基に、キャラメルボックス代表で脚本・演出を手がける成井豊氏と、作家の有川浩さんが、いわば競作することになった。

 本作には、小説版「ヒア・カムズ・ザ・サン」と舞台版から着想を得た「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」の2編を収録している。「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」は単純な舞台のノベライズではなく、いわば小説版に対する「Parallel」だという。

 両編とも主要な登場人物はほぼ共通。出版社で編集の仕事としている主人公の真也は、品物や場所に残された人間の記憶が見えてしまう。ある日、同じ出版社に勤めるカオルの父親が、アメリカから20年ぶりに帰国することになった。真也に見えたものは…。

 カオルの父親・晴男は脚本家であり、家族を投げ打ってアメリカに渡ったという設定。そして、ダメな父親だった…。ただし、どのように「ダメ」なのかが両編で大きく違う。

 両極端な2人(?)の晴男だが、不器用なりに家族愛は持っている。家族を捨てたに等しい父親との再会に、複雑な心理をのぞかせるカオル。カオルの恋人である真也が、彼の力を使い、いかにしてカオルと晴男の間を取り持つかが読みどころ。

 普段は折り合いをつけているが、真也は自らの力に悩んでいる。そのために嫌な思いもした。仕事上役立つこともあるが、喜べない。正直、このように力を行使することは、出すぎた行動にも映る。特に、「Parallel」では上から目線で、晴男に同情するよ…。それでも、真也なりに必死なのは伝わってくる。誰よりも、カオルのために。

 両編とも、実にキャラメルボックスらしい。登場人物が何かしらの超能力を持つというのはキャラメルボックスの定番でもある。一方、有川浩さんらしさも感じる。では、キャラメルボックスらしさ、有川浩らしさとは何なのか? それを簡潔に述べるのは難しい。

 一つ言えるのは、両者のメンタリティが近いこと。必然の企画だったかもしれない。



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