有川 浩 26


旅猫リポート


2012/11/18

 有川浩さんの新刊は、こういうの勘弁してくれよと言いたくなる、実にベタでストレートな作品である。帯によると、来春の舞台化が決定しているとか(キャラメルボックスではない)。これを舞台でやられたら、もう平伏するしかないでしょうよ。

 一言で言えば、青年と愛猫が共に旅に出るという話である。青年・サトルが訪ねるのは、かつての同級生たち。少年時代から転校を繰り返してきたサトルの訪問先は、日本各地に散っている。昔話に花を咲かせる一方、サトルには目的があった。

 語り部を務めるのは、訪問相手かサトルの愛猫・ナナである。サトルの同級生たちが語る思い出は、楽しいことばかりではない。揃いも揃って事情は複雑。まあしかし、お約束の展開であろう。ナナが人間の言葉を解するのも、お約束の範囲内であろう。

 当時も今も親子関係に悩み、妻が家出中の幼馴染。典型的な昔の親か…。紆余曲折の末に農業家として自立した、中学時代の親友。ある意味最悪の親だな…。高校・大学と付き合いがあった、ペンションを営む友人夫婦。彼には今でも負い目があった…。

 でもね、サトルが抱えてきた事情と比較すれば、どれも大したことではないと思えるだろう。早い段階で見え見えの結末ではあったが…ここまで複雑とは想像できず。多くの読者の涙腺が決壊するだろう。ましてや舞台でなど…。うぅぅぅぅぅ…。

 でもね…有川先生、舞台を意識したせいかどうかはわかりませんが、さすがに演出過剰ではないですか??? 有川作品は登場人物に試練を与えることが多いが、ここまで厳しいのはさすがになかったぞ…。やりすぎは僕には逆効果だった。

 救いは、猫らしく誇り高いナナが、憎まれ口を叩きつつも、サトルとの関係を特別に思っていることか。サトルとナナにとって、最初から選択肢は決まっていた。サトルの目的は果たされるわけがなかったのだ。最後のナナの行動にはぐっと来た。

 舞台化に当たり、ナナの役はどうするのだろう。着ぐるみで演じるのだろうか…。



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