綾辻行人 01


十角館の殺人


2000/05/08

 綾辻さんの記念すべきデビュー作にして、現在6作刊行されている「館」シリーズの第一作である。

 本作に登場する十角館を含め、全国各地に奇怪な館を建てた建築家の名を、中村青司という。孤島に建てられた十角館は、かつて中村青司の住居でもあった。その十角館を、大学のミステリ研究会のメンバーが訪れる。しかし、そこには連続殺人の罠が待ち受けていた。一人、また一人とメンバーが殺されていく…。

 初版刊行当時、本作をエラリー・クイーンのとある作品の焼き直しだと指摘する声もあったらしい。僕自身は、その作品のタイトルくらいは聞いたことがあったが、幸か不幸かエラリー・クイーンも含めて古典作品にはまったく疎い。そのせいかどうかはわからないが、僕は本格の面白さを大いに満喫させてもらった。

 デビュー作だけあって、文章が垢抜けていない感は否めないが、内容は凄い。とにかく結末に驚かされた。気持ちいいくらい「騙された」という点で、今でも本作がシリーズの最高傑作だと僕は思っている。そして、僕が今までに読んだ本格物作品すべてと比較しても、やはり本作は最高傑作だ。

 今時、閉ざされた館での連続殺人事件だなんて時代遅れだ、と思う方もいるだろう。実は、僕もそう思っていた一人である。しかし、実際に綾辻作品を読んでみて、その認識は一変した。時代遅れだろうが何だろうが、面白ければそれでいい。

 本作には、若かりし綾辻さんの情熱のすべてが注ぎ込まれている。初版刊行から十年以上が経過した現在でも、その輝きは色褪せていない。

 最後に、文庫版の鮎川哲也氏の解説は素敵だ。人間が描けていない? 堅いこと言わずに楽しもうよ。



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