綾辻行人 03 | ||
迷路館の殺人 |
「館」シリーズに登場した奇怪な館の数々の中から、最も住みたくない館を挙げるとしたら、僕は即座に本作の舞台となる「迷路館」を挙げるだろう。
迷路館に集められた、四人の中堅作家たち。彼らは、迷路館の主人であり推理小説界の重鎮である宮垣葉太郎に競作を命じられるが…。密室状態の迷路館で、惨劇の幕が開く。彼らが書いた作品通りに、一人また一人と惨殺されていく。
シリーズの恒例となっている館の平面図を見て、思わず目が点になった。本当に「迷路」だよ、おい…。この時点で、ふざけるんじゃあねえ! と思った方はさようなら。綾辻作品に限らず、僕はじっくり平面図を見たことはないのだが、この迷路の構造はしっかり殺人トリックに用いられているのだった。
本作の大きな特徴は、作中作になっていることである。綾辻行人作『迷路館の殺人』の中に、鹿谷門実(ししやかどみ)作『迷路館の殺人』がすっぽり収まっている。目次はあるし、あとがきはあるし、この芸の細かさには恐れ入る。なお、版元は稀譚社ノベルスだそうな。
これはお遊びという面ももちろんあるだろう。しかし、ただのお遊びではないところがさすが綾辻さんである。作中作だけでも立派に本格ミステリーとして通用するのに、最後に罠が仕掛けられている。
凄惨な殺人劇を描いているにも関わらず、実に能天気な本格ミステリーである。本作は随所に遊び心が満載だ。綾辻さんご自身が楽しんで書いているのがひしひしと感じられて、心地いい一作である。素直に楽しむのが吉だな、これは。
ちなみに、ノベルス版の表紙には間違いがある。興味がある方は書店へどうぞ。