綾辻行人 04 | ||
緋色の囁き |
「赤」をわざわざ「緋色」と表記することは、現代では稀だろう。なぜ『赤い囁き』ではなく『緋色の囁き』なのか。本作を読んでみて、何となくわかった気がする。「赤」ではだめだ。本作には、「緋色」という古風な言葉こそ相応しい。
舞台は、全寮制の名門校、聖真女学園高等学校。「私は魔女なの」という謎の言葉を残し、一人の女生徒が聖真寮の「開かずの間」で焼死した。その夜以降、次々と起こる、級友たちの惨殺事件。血の海に沈んでいく、女生徒たち。魔女の疑いをかけられ、自らも疑心暗鬼に捕われる、転校生の冴子。
と聞くと、ありがちな学園ホラーじゃないかと思うかもしれないが、一筋縄ではいかないのが綾辻作品である。ミステリーファンもホラーファンも、とにかく読んでみよう。
括弧やら太字やら「…」やらを駆使して、作中の至るところに挿入された「囁き」。文庫版解説でも述べている通り過剰気味ではあるが、見事な効果を上げているので気にならない。挿入するタイミングの絶妙さ。下手に真似したら、ただ読みにくいだけだ。
学校の描写はひたすら暗い。厳しい校則に体罰を加える教師。そんな学校に相応しく、明るさも快活さも感じられない生徒たち。綾辻さんならではの、「日常」が「非日常」な閉鎖された世界。徹底した舞台描写だからこそ、「緋色」が映える。
綾辻作品だけにもちろん謎にも重点を置いているが、動機が弱いだのとケチをつけたがる人もいるかな。サイコホラーの難しいところではあるが、結末は二の次だと敢えて言ってしまおう。どうか本作は雰囲気で読んでほしい。「緋色」に彩られた耽美な作品世界こそ、本作の命だ。
本作のモチーフは、映画『サスペリア』だそうである。「決して一人では観ないでください」という日本公開当時の宣伝文句に、幼かった僕は震え上がったものだ。