綾辻行人 22


びっくり館の殺人


2006/03/20

 かつて子どもだったあなたと少年少女のための―講談社ミステリーランドから刊行された本作は、「館」シリーズの正式な第8作でもある。

 三知也が小学校六年生のとき、近所に「びっくり館」と呼ばれる屋敷があった。色々な噂が囁かれるその屋敷には、白髪の老主人と、病弱な少年トシオ、そして人形のリリカがいた。クリスマスの夜、「びっくり館」に招待された三知也たちが遭遇した事件とは…。

 綾辻作品恒例のあとがきを、「少年少女」のみなさんへ、「かつて子どもだった」みなさんへ、とわざわざ分けて書いているところが何とも生真面目で、綾辻さんらしい。僕はミステリーランドを数えるほどしか読んでいないが、本作はシリーズ中でも「少年少女」に読まれることを強く意識した作品であるように思う。言い換えれば、「かつて子どもだった」読者には子どもに戻ることが要求される。大人のままで読んではだめだ。

 真相だけに目を向ければ、タイトル通りに「びっくり」とまではいかない。いつも騙される僕でも薄々勘付いたくらいだから、多くの「かつて子どもだった」読者は気付くに違いない。だが、その一点だけで本作を斬って捨てるのは誤りである。本格なんて知らなかったかつての自分が、本作を読んだらどう感じるだろう。そこに思いを馳せるべきである。

 そうは言いつつ、雰囲気作りは相変わらずうまい。屋敷の老主人が「いっちゃってる」シーンは迫真の描写だろう。何よりもうまいと思うのは、かつてこっそり冒険に出かけたときに感じた、わくわく感と後ろめたさを思い出させる点である。怪しい噂が立つ家はどこにでもあっただろう。行くなと言われれば行きたくなるのが子ども心というもの。

 実は本作は、十年以上前の事件の回想という形で描かれている。真相も含めて、無意識に記憶を封印していたのだと考えれば、納得できなくもないか。って、これだから大人はだめだな。余韻を残す結末から、何を想像できるかが問われている。

 さて、第9作はいつ刊行されますやら。いつまでも待ちますよ。



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