幡 大介 NS-01


猫間地獄のわらべ歌


2013/01/14

 『このミス』第13位、『本ミス』第14位にひっそりランクイン。講談社文庫書き下ろしで刊行された本作を書店で見かけ、俄然興味を惹かれた。というのも…。

 著者の幡大介さんは時代物作家である。著作リストをご覧いただければわかる通り、2008年のデビュー以降驚異的刊行ペースで既に著作は多数。本作も当然時代物だが…同時に本格ミステリのお約束がてんこ盛りという怪作なのである。

 猫間藩の江戸下屋敷の書物蔵で、御広敷番が絶命。現場はいわゆる「密室」であり、常識的に考えれば切腹したことになる。しかし、不祥事を恐れた藩主の愛妾和泉ノ方は、内侍之佑らに密室破り≠命じた…。つまり、あくまで殺害されたという筋書きをひねり出せというのだ。間の悪いことに、現場は既に詳細に調べられていた…。

 なんとまあ大胆な設定か。一方、江戸から離れた猫間藩では連続殺人が発生。領民の間でわらべ歌通りではないかと噂が流れ…ええと、これってやっぱりあれですか…。というように、一筋縄では行かない時代本格ミステリなのである。

 それにしても、あの超有名シリーズまでネタにするとはねえ。トリック自体は見え見えだったけれども、嬉しくなってしまった。本作は各編が独立して読める一方、全編を通した背景にも注目したい。茶目っ気たっぷりながら、背景は至って真面目。

 本格ミステリがアイデア次第で新人でも勝負できる一方、時代物は専門性が高く、誰でも参入できるわけではない。大御所も多いし、幅広い知識が求められる。幡大介さんは、時代物作家の強みを生かして、お約束の数々を見事に料理してみせた。時代物と本格ミステリの両方に精通している作家は、稀有な存在だろう。

 本作に投票した目利きの方々には敬意を表したい。時代物を読んだことがないミステリファンは手に取るべきである。でもねえ、最後のお約束はかなり強引ではないか? とはいえ、ここは笑い流すのが江戸っ子の粋なのであろう。



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