遠藤武文 04
	デッド・リミット

　初めて講談社以外から刊行された遠藤武文さんの新刊である。告白しよう。どれだけ突っ込みどころがあるか、興味はその1点のみだった。ところが、いやあ驚いた。実にこなれているではないか。失礼ながら、これは掘り出し物だ。

　シングルマザーの智子に届けられたのは、切断された息子の指。犯人は身代金5千万円を要求。智子は金策と受け渡しに奔走するが…。全5章、事件に巻き込まれた5人の視点で物語は進む。最後の章で事件の全容が明らかになるという趣向だが、すみません、第1章を読み終えた時点で期待はしていませんでした。

　第1章。智子の必死さは涙ぐましいが、おいおい何て短絡的な…。わが子を思う気持ちが智子を突き動かしたと思っておこう。その割には不手際だらけだが。

　第2章。智子の息子、大翔（はると）の担任である柳原佳葉子は、校長の紹介で良縁を掴んだ。ところが、何者かがメールで写真を送りつけてきた…。柳原の歪んだ人格形成に苦笑してしまう。そして、おいおいこれまた何て短絡的な…。

　第3章。ブラック会社に就職し、年下の店長に顎で使われる松浦義純。事情を知らない両親は、息子を自慢していた。今回最も同情できるのが松浦。会社に反旗を翻した松浦に対して、この仕打ちは酷に過ぎる…。完全なとばっちりだけに。

　第4章。会社員ならとっくにクビだろう、不良刑事の磯崎裕也。ところが、緊急配備中の事件の手がかりが転がり込んでくる。こういうのも刑事の才能の一つなのかね。せっかくの手柄を利用するずる賢さの反面、意外と情には厚い。

　そして第5章。彼が「仕事」を軽く考えていたのが、すべての発端だった。最も悪いのはあの男とはいえ、どんどん自分の首を絞めていった結果は…。

　デビュー作同様に視点人物が多いにも関わらず、「どうにもならない大きな傷」はない。細かい瑕疵はあるかもしれないが、最後にあらゆる謎を一つに収斂させる手腕はなかなかのもの。どーですかこの嫌な結末。うーむ、ネタと笑い流せない…。