江坂 遊 01


仕掛け花火


2008/05/18

 江坂遊という作家を知ったのは、最新刊『ひねくれアイテム』を書店で見かけたからである。ショートショート集であることに惹かれて手に取った。実は、「綾辻行人・有栖川有栖 復刊セレクション」の1冊として、初作品集『仕掛け花火』も復刊されていた。

 日本における第一人者の故星新一氏を除くと、ショートショートを専門に手がける作家は江坂遊さんのみと思われる。ただでさえ短編は長編より軽視されがちだが、ショートショートはさらに低く見られる。ところが、難易度は極めて高い。極限まで無駄を削ぎ落とし、限られた文字数に起承転結を盛り込まなければならない。

 僕自身は、ショートショートで重要なのはオチだと思っていた。本作収録の各編には、もちろんオチが鮮やかな作品もある。しかし、決してオチがすべてではないことを、本作は教えてくれる。巧みな伏線。不思議な余韻。漂うノスタルジー。SF、ホラー、ファンタジー、ブラックユーモアと多彩なジャンル。この創作力の源泉はどこにあるのか。

 江坂遊のすごさは僕には到底語りつくせない。とにかく実際に読むのが一番。そこいらの大長編よりもはるかに濃密であることがわかるだろう。空いた時間に少しずつ読むもよし、一気に読むもよし。少なくとも2回は読むことをお勧めしたい。

 以下は各編の一言コメントである。大変迷ったが、特によかった10編を星で示す。

I 猫かつぎ

 猫かつぎ … 文字通り猫をかぶっていたってか。
 臨時列車 … 駆け込み乗車はおやめください。
 鏡の女 … 鏡よ鏡よ鏡さん。
 マッチ棒 … 本当は怖い「マッチ売りの少女」。
 かげ草 … 日光がなくても発芽するって理科で習ったよねえ。
 月光酒盛り … 日本酒は苦手だが、今後も苦手でいよう。
 虹細工 … 二重の虹ならたまに見るが。
 夜釣りをする女 … 異様なシチュエーションがこんな憎いオチに。
 背中 … 地球温暖化のなれの果て。
 骨猫 … ダイエットはほどほどに。
 夢ねんど … 使ってみたい人は多いはず。
 会議中 … 会議ばかりしている人っているよね。
 占う天秤 … 分銅はピンセットで扱えと理科で習ったよねえ。

II 地下鉄御堂筋線

 ある日の妻 … 男ってやつは。
 新しい店 … 頑張れ商店街。
 夢の木 … 使ってみたい人は多いはず?
 耳飾り … それもまた縁というものではないか。
 おかげさま … 雨の日はどうするんだろう。
 我が家遠く … 帰る家があるって幸せ。
 踊る男 … 盆踊りも廃れたよねえ。
 棟梁 … 思い残すことはないだろう。
 眠りにつく前に … いずれしっぺ返しが…。
 箱娘 … こんな箱入り娘は勘弁。
 冬の同居人 … 格好悪いふられ方。
 開いた窓 … 恨み晴らさでおくべきか。
 星の数ほど … ミシュラン騒動のなれの果て。
 地下鉄御堂筋線 … 押し合わず順序よくお降りください。

III 花火

 たまご売り … オチより子供の性格の方がすごい。
 温かい椅子 … 冬場の暖房便座ならありがたいが。
 自転車 … BGMはQUEENの"Bicycle Race"で。
 月光剣 … これが本当の円月殺法。
 あるお土産 … 掃除をすべきかすべきでないか、それが問題だ。
 廃線区間 … 間もなく列車がまいります。
 二人のテレビ … 昔は砂嵐になるまで見ていたものだが。
 秋 … 中国四千年の神秘。
 赤い街 … 危機一髪。
 児童販売機 … 少子化のなれの果て?
 ある夜のメニュー … ある意味すごい腕ではある。
 花火 … 芸術は爆発だ。



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