藤原伊織 09 | ||
遊戯 |
2007年5月17日。作家藤原伊織は食道癌のため逝去した。享年59歳。リアルタイムに愛読している作家の死。余命を知った時点で覚悟はできていたはずだ。だが、面識もなく、作品を通してしか繋がりのない作家の死は、僕の中で現実感を伴わないのだった。帯に「追悼」の文字が躍る本作を読み終えても、それは変わらない。
本作は「小説現代」で連載されていたが、藤原さんの死によって未完に終わった。単行本刊行に踏み切ったことには賛否両論があるだろう。一読者として、読みたい欲求には抗えないが、作者の意図しない形で読むことに後ろめたさも感じる。
ネット上の対戦ゲームで出会った男と女が、現実社会でも奇妙に繋がり合っていく。一言で述べるとこうなるが、繋がり合った結果を確かめる術はない。未完に終わった作品の感想を書こうにも書きようがない。それを承知で読んだはずだろう?
それでも敢えて部分部分の印象を述べると、序盤で男が初対面の女に過去を晒すシーンは衝撃的だ。これで結末に期待しないわけがない。他にも散りばめられた謎。二人を監視する男の存在。正体は? 目的は? 男が手放せないある物。何に使うのか?
僕の乏しい想像力では結末を予想できない。一つ言えることは、本作は僕が読んだどのネットネタ作品よりも、成功していたかもしれないということだ。だからこそ、未完に終わったのが悔しくてならない。誰よりも、藤原さんご自身が無念だったに違いないが。
併録されている短編「オルゴール」が、多少なりとも悔しさを和らげてくれる。この遺作に、人物、台詞、過去と藤原作品のあらゆる要素が凝縮されている。運命のいたずらと呼ぶには過酷すぎる連鎖。明るい話ではない。それでも思う。読めてよかった。
藤原伊織という人物のあまりにも破天荒な生き様を知ったのは、訃報を耳にした後であった。こんなのずるいよ。叩き起こして続きを聞きたい。