深水黎一郎 04

花窗玻璃

シャガールの黙示

2009/09/12

 待望の深水黎一郎さんの「蘊蓄系」ミステリ第3弾は、ますますトリックはおまけ扱いになってきた。だからだめだと言う気は毛頭ない。

 今回、海埜刑事と甥の瞬一郎のコンビは事件現場に赴かない。というのも、瞬一郎がフランスのランスに滞在中に関わった事件を小説化し、それを海埜刑事が読むという趣向だからである。この「作中作」というのが大変読みにくい。

 古今東西の芸術に精通した瞬一郎だが、日本語にも並々ならぬこだわりがあるらしい。曰く、あいつら(文科省?)は常用漢字なんぞを制定した日本語弾圧の元凶だとか。賛同できなくもないが、カタカナを使用せずすべて当て字にしてしまうのは話が別だろう。ルビの多さは京極作品をはるかに凌駕する。おかげで海埜も読者も眩暈が…。

 さて、内容だが、今回のテーマはゴシック建築、そして花窗玻璃(ステンドグラス)か。ランス大聖堂をこよなく愛する、大学教授を退官した老人は言う。シャガールのステンドグラスが飾られた祭室に近づいてはいけない。実際、そこで2人の死者が出ていた。

 この老人ローランの、並々ならぬランス大聖堂への思い入れを、普通の観光客が理解するのは難しいだろう。悲しいかな、瞬一郎が言葉を尽くせば尽すほど、読者もますますわからない。歴史ではなく世界遺産という肩書に、観光客は群がるのだから。

 おそらく本作のメインと言える、ランス大聖堂からの男性転落死の謎。カバーの折り返しにランス大聖堂の写真が載っているのだが、できるのかそんなこと。瞬一郎曰く、ランス大聖堂だからできたというのだが…。動機という面では、本作中最もわかりやすい。それだけに、苦い思いで本作を読み終えた。って、こんな風に書き残していいのかよ。

 相変わらず予備知識は必要としないが、シリーズ中最も芸術と芸術を愛する心への共感が求められる。そういう点では難易度は高い。共感できなければ、高い評価にはならないだろう。深水さんは実際にあのステンドグラスを見たのだろうか。ネットで写真を見たけれど、実際に青い光を浴びなければ語る資格はあるまい。



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