福井晴敏 21

震災後

こんな時だけど、そろそろ未来の話をしよう

2011/11/06

 いま、日本人がもっとも必要とする「物語」。――と、帯には書かれている。久々のガンダムではない福井晴敏さんの新刊でもあり、期待して手に取ったのだが…。

 2011年3月11日、多くの日本人と同様に、本作の主人公野田圭介も仕事中であった。首都圏が帰宅難民で溢れたこの日、圭介は何とかタクシーを捕えた。多摩地区の自宅に戻る車中で、タクシーの運転手が言う。福島の原発が危ないらしい…。

 原発事故を巡り、Twitterなどを通じて瞬く間に拡散したデマ。政府や東電の発表はすべて嘘と考える人が、ネットの情報は簡単に信じてリツイートする。僕の世代とは違い、現代は小学生でもネットに親しむ時代。大人がネットに翻弄されたのだから、圭介の中学生の息子・弘人が影響されても無理はない。今なお情報の錯綜は続いている。

 計画停電とそれに伴う電車の本数削減、夏の電力使用制限とそれに伴う企業の土日操業。現実をなぞりながら物語は進む。野田一家は連休を利用して被災地にボランティアに行くが、被災地の描写は少ない。基本的には東京目線である。

 東京目線が悪いというと言うつもりはない。だが、お定まりの政府・民主党批判が読みたくて本作を手に取ったのではない。このテーマを扱いながら、読んでいて「軽さ」が気になってしかたがない。そうこうしているうちに、本作のメインなのであろう事件が起きる。どうやら、弘人が関係しているらしい。圭介は打ちのめされる…。

 本作は、PTA主催の臨時集会で圭介が登壇しようとするシーンから始まる。大学教授らに混じって圭介が講演を決意する経緯が読みどころなのかもしれないが…。なるほど、圭介の講演内容は興味深いとは思うが、これが本作を通じて福井晴敏が言いたかったことなのか? PTA会長の言い分にだって一理ある。

 旧防衛庁勤務だったという圭介の父は、本作に必要不可欠な人物だったのか。震災を巡る問題に親子の事情を絡め、きれいにまとめようとしているのは安直に過ぎる。故郷が被災した僕の目から見て、訴えるものがない作品だった。



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