葉真中 顕 02 | ||
ロスト・ケア |
今年もランキングからミーハーに選んでみよう第2弾。介護問題がテーマである点に興味を持ち、本作を手に取った。このタイトルの意味とは…。
検察官の大友は、介護業界大手のフォレストで働く同級生の佐久間を通し、最高級の養護施設に父を入居させた。その後もときどき会っていたが、介護をビジネスと割り切ってはばからない佐久間の言動に、危ういものを感じていた。
ところが、介護保険制度によって風向きが変わる。都内の事業所で不正が発覚したのをきっかけに、フォレストは世間から袋叩きに遭う。自信家だけに、対応に忙殺され苛立ちを隠せない佐久間。一方、本社の責任がどうあれ、末端の事業所はサービスを提供しなければならない。嫌がらせに耐えつつ日々の業務をこなす。
フォレストのモデルがあのコムスンであるのは明白だろう。フォレストを、佐久間を断罪するのは簡単だが、彼や末端のスタッフが漏らす言葉が、正鵠を射ている面も否定できない。実態に合わない介護保険制度。博愛精神だけで介護ができるのか? 認知症の母を介護する家庭の描写は、あまりに凄惨だ。そして事態は密かに動いていた。
大友が入手したデータを、検察事務官の椎名とともに分析すると、明らかな傾向が現れた。どうして発覚しなかったのかと疑問に思わなくもないが、とにかく大友は上司を説得して独自捜査に動く。苦戦覚悟で臨んだのだが…。
「安全圏」にいる大友は、カトリックとして洗礼を受けており、性善説を信じている。ところがどうだ。「確信犯」たる「彼」の言葉。遺族の言葉。敬虔とは言えない大友も愕然とする。法に照らして正論を通すのが検察官の仕事だが、正論が空虚に聞こえる現実がある。それでも、彼は彼の正義を、正論を通さなければならない。
読者の誰もが、大友であり佐久間であり「彼」であることに気づかされる。最後はきれいにまとまっているが、介護問題という社会的テーマと、ミステリー的な仕掛けの部分が噛み合わず、ちぐはぐな印象を受ける。問題提起のため、敢えてミステリーというフォーマットに乗せたのならば、意欲は買いたい。