畠中 恵 01 | ||
しゃばけ |
本作は、第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した畠中恵さんのデビュー作であり、現在7作刊行されている「しゃばけ」シリーズの第1作でもある。
主人公である江戸有数の薬種・廻船問屋長崎屋の一人息子・一太郎は、生まれつき体が弱く、17歳の現在も外出もままならない。そんな一太郎の周囲は妖(あやかし)だらけだが、他の者には見えない。一太郎が幼いころから長崎屋に奉公していたお目付け役の仁吉と佐助も、実は妖だが、他の店の者には人間にしか見えない。
序盤からいきなり、そんな一太郎が目を盗んで夜に外出し、人殺しに遭遇する。ほどなく、下手人は捕まったのだが、なぜか似たような事件が続く。それぞれ下手人は違うののだが、斬りかかる前に皆同じ台詞を言う。これらの事件の背景を探っていくと…。
このシリーズは、自らはあまり動けない一太郎に代わり、鳴家(やなり)などの妖たちが捜査に動くのが特徴である。ファンタジーの要素とミステリーの要素を持ち、時代物であり、人情物。ガイドブックも刊行されるなど、読者からの高い支持がうかがえる。
とはいえ、完全な安楽椅子探偵ではない。いくら体が弱かろうが、部屋にじっとしていられる年頃ではない。実際、時々外出しては何日間か寝込み…というパターンを繰り返す一太郎は、あまりにも主人公として頼りなく、心配になってくる。と、いうのも…。
事件以外に、一太郎には外出したい理由があったのだった。その辺りの事情も徐々に明かされるものの、事件とごっちゃになってぼかされた印象がある。このエピソードは今後も描かれるようだが。事件の方は、動機の面で興味深いものの…何て身勝手な。妖の世界は奥深いというか何というか、驚く以前に考え込んでしまった。
最後に一太郎が主人公らしさを発揮することだけは触れておこう。どうしてもミステリー的視点で読んでしまい、個人的にはそれほど高く評価できなかった。しかし、作品世界には十分魅力があり、一太郎の今後も気になるので、読み進めようと思っている。畠中さんの作品はこのシリーズを含め連作短編集が多いが、短編の方が向いているのだろうか。