畠中 恵 02


ぬしさまへ


2009/02/26

 しゃばけシリーズ第2作は連作短編集である。まだ2作を読んだのみだが、個人的には短編の方がこのシリーズの良さが出ている気がする。

 表題作「ぬしさまへ」。長崎屋の手代仁吉は、人間としては美男で大層もてる。ある日、悪筆な懸想文(ラブレター)を受け取るが、その主くめが殺された…。妖たちが調べてきたくめの人物像が、評判が悪かったり気立てがよかったりとばらばらなのが興味深い。一太郎さんそんな手を使うかい。こういう人は現代人にもいそうだな。

 「栄吉の菓子」の栄吉は、長崎屋の隣の菓子屋三春屋の跡取りにして、一太郎の数少ない友人。そんな栄吉に殺しの疑いがかかる。栄吉が作った饅頭を食べた客が死んでしまったのだ。栄吉は餡を使った菓子を作るのが下手なのだが、気の毒にも苦笑してしまった。真相は納得できない面もあるのだが、やっぱり寂しいってことか。

 「空のビードロ」は、作中唯一一太郎が主人公ではない、番外編的1編。この内容について触れることは、『しゃばけ』のネタばれでもある。省略。

 「四布の布団」。病弱な一太郎のためにあつらえた布団は、曰くつきだった。田原屋に怒鳴り込みそうな勢いの藤兵衛と、気が進まない一太郎。ところが田原屋の主人というのが困った上司を絵に描いたような御仁。これを機に心を入れ替えるか?

 「仁吉の思い人」はすごい。時空を超えた壮大なラブストーリー。これを読んだらどんなラブストーリーも霞んでしまう。最後の「虹を見し事」は、一太郎の回りに異変が? さすがの一太郎にもこれは解けなかった。妖たちも人(?)が悪いねえ。しかし、すべては一太郎を本心から慕っているからなのだ。それがわかるから、一太郎の内心も複雑だ。

 たくさんの妖が登場するしゃばけシリーズだが、人間の心情を描くことに重点が置かれている印象を受ける。妖のキャラクターは魅力的だが、それだけでは多くの読者を獲得できなかっただろう。現代社会に通じるテーマが多い点にも注目したい。



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