畠中 恵 04 | ||
ねこのばば |
だいぶキャラクターにも慣れてきた、しゃばけシリーズ第3作。人情推理とされる本シリーズだが、これまでとはやや趣が異なるように感じられる。
最初の1編「茶巾たまご」の下手人の、「何で殺してはいけないのか、分からなかった」という供述に象徴されるように、現代的な犯罪の不条理さをテーマにした作品が多い。当然楽しい結末ではなく、本来ならば読後感は重いはずである。しかし、そういう内容でも気楽に読めるところが、賑やかに妖たちを配した本シリーズのいいところなのだろう。
「茶巾たまご」。主人夫婦が次々に死んだ海苔問屋大むら屋から、金次という貧相な男が長崎屋に移ってきた。その後、大むら屋の姉妹の姉、お秋が死んだという。文箱の中身に込められた、大むら屋存続への思い。本来なら結末の意外性が光るはずが…。
「花かんざし」は、ネタばれにならない程度に書くと、どう裁くべきか困る罪を描いている。極めて現代的ではないか。いずれ裁判員制度の下でこういう事例が裁かれるだろう。人間だけでは決して見抜けなかった真相。一太郎だから理解できた。
表題作「ねこのばば」は強敵が相手。妖封じで有名な広徳寺の僧、寛朝には、一太郎たちの素性がわかっている。寛朝との取引に応じ、殺人の謎解きに挑む一太郎。…殺した方も殺された方も僧の風上にも置けない。しかし、金に汚い寛朝の口から僧の精神を語ってほしくない気が…。世の中結局金なんかい。本シリーズならではの論理性に注目。
続く「産土(うぶすな)」は…何度もやられた手にここでやられるとは。畠中さんもお人が悪い。このご時世、僕だってすがってみたいぞ。最後の「たまやたまや」は、友人栄吉のためにこっそりと動いた一太郎が危機に陥る。どうせ助けが来るのはわかっているが、病弱な一太郎だけにはらはら。結局原因は一太郎かい。本作中唯一、めでたしめでたし。
文庫版解説によると、しゃばけシリーズは時代小説としても時代考証がしっかりしているという。ミステリー読みは読み急いで細部を流しがちなんだよなあ。