畠中 恵 06 | ||
とっても不幸な幸運 |
しゃばけシリーズなどの時代物作品で知られる畠中恵さんだが、わずかながら現代物作品もある。本作『とっても不幸な幸運』は、3作しかない現代物作品の1つである。
腕っ節が強い店長が切り盛りする、新宿の『酒場』という名の酒場。常連以外お断りのこの店の常連というのが、警察官、医師、手品師など曲者揃い。なぜか毎回、店には「とっても不幸な幸運」という缶が持ち込まれる。プルトップを引くと幻影が見えるらしいのだが、同時にトラブルが始まる。何だかんだで面倒見のいい店長は、どう動く?
行きつけの店を持たない僕は、行きつけの店というものに憧れがある。しかし、京都の料亭同様に一見さんお断りの『酒場』の常連になりたいかというと…。客を客とも思わず、しょっちゅう暴れて店の調度を壊す店長のキャラクターを、正直好きになれない。
武闘派なのはまあいいのだが、「あんたに言われたくない」という反感を抱いてしまうんだよなあ。第三話における健也の気持ちはよくわかる。店長をかっこいいと感じる読者もいるだろうから、感覚の問題としか言いようがない。でも娘には弱かったりして。
全六話とも重いテーマを扱っているのだが、その割にはさらっと読める。登場人物のアクの強さが意外な効果をもたらしたと言えるが、コメディタッチかシリアス路線か中途半端な印象を受ける。いわくつきの缶という小道具もあまり生きていないような。
と、ここまで書いて、ある作家の名が思い浮かんだ。その名は蒼井上鷹。個人的に買っていて、作品からも一生懸命さが伝わってくるのだが、意欲が空回りしていることが多い。本作に抱いた印象は、蒼井作品を読んだときの印象に近い。よく作り込まれているのはわかる。しかし、ミステリー読みの悲しさか、ほんのり温かくはなれなかった。
決して現代物を書く力量が低いわけではないが、しゃばけシリーズの方が良さが出ているか。なお、残る2作の現代物は『百万の手』と『アコギなのかリッパなのか』である。