畠中 恵 08 | ||
アコギなのかリッパなのか |
本作『アコギなのかリッパなのか』は、畠中恵さんの3作しかない現代物作品の1つであり、政治の世界を描いた異色作でもある。
主人公の佐倉聖21歳は、引退した大物政治家・大堂剛の事務所の事務員にして、弟を養う大学生。気転が利いて頭が切れるが、昔は暴走族の一員として鳴らし、腕っ節も強い。そんな聖だけに、大堂からは重宝されている。
聖は誰かの秘書というわけではなく、要するに雑用係である点がポイント。一線は引いたが『風神雷神会』会長である大堂の事務所には、現役の国会議員も出入りする。議員や秘書自身が表立って動けない問題の解決を、聖が担うのだ。
正直あまり期待はしていなかったことを告白しよう。最初から飼い猫の毛の色が変わるとかいう話で、ポカンとしてしまった。政治に何の関係がある??? ところが、読み進めるほど作品世界にはまっていく。同行した議員や秘書に生意気な口を利くものの、人の心の機微を読み取る能力は21歳の若者とは思えない。頼られるのもよくわかる。
こうした聖の素養は天性のものなのか、大堂が叩き込んだのか。弟の保護者としての自覚も大きいのだろう。聖自身は、普通に就職することを強く望んでいるのが面白い。彼ならどこにでも採用されるんじゃないか。終盤には聖の家族の問題も描かれる。
現実の政治を見るにつけ、引退した大堂を始め、本作に登場する政治家が魅力的に映る。そんな彼らも、苦労を重ねて現在の地位を築いたことを、近くで見ていた聖はわかっている。現役政治家による政治塾が昨今は流行りだが、ものになるのは果たして何人か。と、本作に出てくる政治家志望の若者たちを見て思うのだった。
文庫版解説によれば、本作には続編が予定されているそうなので、楽しみに待ちたい。今後、聖自身が秘書になったり選挙に出ることがあるのか。