畠中 恵 12


つくもがみ貸します


2010/08/18

 畠中恵さんのメインシリーズであるしゃばけシリーズにおいて、付喪神(つくもがみ)といえば主に屏風のぞきのことを指す。ところが、『つくもがみ貸します』と題された本作には、多数の付喪神が登場する。本作に登場する妖は、すべて付喪神なのである。

 損料屋(現在でいうレンタル業)兼古道具屋である出雲屋を営む、お紅と清次の姉弟。出雲屋の貸し出し品の中には、百年を経て「妖」と化した付喪神たちが混在していた。

 付喪神たちは貸し出された先での情報収集を担い、時には自らの意思で動く。しゃばけシリーズでは、一太郎の指示の下、鳴家たちが手柄を競うように捜査に繰り出すが、気位が高い本作の付喪神たちは、お紅や清次ら人間の言うことに素直に従ったりはしない。ただし、付喪神たちの会話がお紅と清次には聞こえるのがミソ。

 という、しゃばけシリーズとの設定の違いは興味深いのだが、付喪神がたくさん登場する割にはキャラ立ちが弱く、あまり印象に残らなかったのが正直なところ。全5編、それぞれ違う付喪神が語り部を務めるなど、それなりに凝った構成なのに。

 そもそも、この連作の中心に描かれるのは、お紅と清次の過去に絡むある事情。蘇芳(すおう)という香炉が鍵を握っているとだけ書いておくが…もうね、何をうだうだやってんだって。態度をはっきりしろって。そんなに引きずっておいて最後がこれ? うーむ、人間の方にもさっぱり共感できず。こんな僕は、本作の楽しみ方を間違っているのだろうか。

 そんな中で楽しめた1編を挙げると、「裏葉柳」である。復讐譚とだけ書いておこう。殺しはしませんのでご安心を。付喪神たちも人間を懲らしめるのは楽しくてしかたないのか、最も生き生きしているように感じる。唯一、人間と思惑が一致した話か。

 好みの問題かもしれないが、やはり人間と妖の絡みが弱い(というか付喪神は人間と絡む気がない)点が、しゃばけシリーズに一歩譲る要因だろう。いい素材が揃っているだけに、惜しい作品集である。もっと「裏葉柳」のような話があれば。



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