畠中 恵 21


ちょちょら


2013/09/06

 江戸時代を舞台にした時代小説は捕物帖を中心に数あれど、本作のように政治の世界に焦点を当てた作品は、ありそうでないのではないか。一言で述べると、本作は政治小説だが、まったく堅苦しくはない。むしろ、大変面白い。

 自刃した兄の後任として、多々良木藩の江戸留守居役となった間野新之介。どうにも頼りないこの主人公は、万事兄に劣ることを自覚していた。しかし、弱音を吐いてばかりもいられない。藩の行く末が、新之介の双肩にかかっているのだから。

 各藩が置く江戸留守居役という役職は、情報収集を担う。他藩の留守居役と宴席を設けたり、幕閣に通じる人物に付け届けをしたり…要するに、接待や賄賂に明け暮れる。一見すると藩の金子で遊び呆けているような留守居役を、快く思わない藩士も多い。

 とはいえ、小藩の予算は限られている。長州藩のように年間千両もの潤沢な予算を持つ大藩がある一方、財政が逼迫した多々良木藩の予算はわずか五十両。それでも精一杯もてなすしかない。必要とあらば商人に頭を下げる。

 新入りの新之介は、早速組合の先輩たちに手荒い歓迎を受ける。この組合というのが、結束しているようで一筋縄にはいかない。複数の組合に属する留守居役もおり、関係は入り組んでいる。彼ら留守居役が最優先すべきは、我が藩なのである。

 兄の影を引きずりつつも、そこは武士の端くれ、決して音を上げない新之介は見上げたもの。岩崎らに鍛えられ、留守居役の何たるかを学んでいく。藩のためなら家老にも楯突く。同時に、読者も江戸の政治について理解を深められるのだ。

 重要情報を得た新之介は、他藩を巻き込んで必死に回避を図る。苦悩する新之介には申し訳ないが、緊迫感があるはずのクライマックスはどこかおかしい。結果的に人を助けてばかりの新之介。読者は自然と応援に熱が入るだろう。

 ところが…へ? どういうこと??? 新之介の物語に続編はあるのだろうか。



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