東川篤哉 09


ここに死体を捨てないでください!


2012/09/17

 烏賊川市シリーズ第5作。どこにだって死体は捨ててもらいたくないが。今回のトリックは、シリーズ中でも屈指のスケールと言えるだろう。

 序盤に登場するのはレギュラーメンバーではない男女。成り行き上共犯関係に陥った2人は、「荷物」を必死に運んでいた。そしてようやく運び終えたが…ちょっと待てっ、間抜けすぎるだろっ!!! ところが、彼らの不幸はこれでは済まなかった。

 一方、鵜飼探偵事務所には依頼人が約束の時間に現れない。当然、依頼内容は不明。手がかりは、電話の録音テープに残されていたペンションの名のみ。鵜飼、流平、朱美の3人は、急遽そのペンション、「クレセント荘」に骨休めに向かう。

 すると、クレセント荘にはあの不幸な男女が迷い込み…。しかも、経営者一族の内情は何やら訳ありらしい。何ともご都合主義というか強引な展開だが、烏賊川市シリーズとしては突っ込むほどのことではない。役者が揃ったところで、事件は本番を迎える。

 鵜飼たち3人と、哀れな男女2人が、勘違いに勘違いを重ねてお互いを疑うのが面白い。砂川警部も乗り込んできて、2人は勝手に誤解を深めていく。お気楽な鵜飼たちと対照的に、焦る2人。しかし、このシリーズらしく緊迫感がないのは言うまでもない。

 大きな謎は2つある。最初の1つは、僕の予想は砂川警部と同じだったが、2つの謎が実は根っ子で繋がっていたとは予想できず。今回は鵜飼に軍配。何とまあ手間暇かけたものである。これほど単純明快かつ映像的なトリックもあるまい。

 事件の真の構図は最後の最後にわかる。真犯人はあの2人以上に哀れだった。策士策に溺れるというか、因果応報というか…。これほどまでに悲惨なのに、なぜか笑いが込み上げてくる。2人には寛大な処置をお願いしたいものである。

 解説の石持浅海さんは、東川さんとは〈KAPPA-ONE〉の同期である。石持さんによれば、江戸川乱歩賞受賞者がドラフト1位なら、〈KAPPA-ONE〉は育成枠だという。その言葉に、謙遜と同時に強い誇りを感じるのは、僕だけではあるまい。



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