東川篤哉 10


謎解きはディナーのあとで


2011/01/21

 気になる作家の一人だった東川篤哉さんの作品を、初めて手に取った。当然ながら、ミーハー読者の僕が本作を選んだ理由は、文春ベスト10第10位、本格ミステリ・ベスト10第9位と年末ランキングで上位に入ったことが大きい。

 警視庁国立署の刑事・宝生麗子の上司である風祭警部は、中堅自動車メーカー『風祭モータース』の御曹司。ところが、実は麗子は、『風祭モータース』など目ではない『宝生グループ』総帥の令嬢だった。もちろん風祭警部は知らない。

 事件の謎を解くのは、いつも宝生家の執事。道化役の風祭警部に、語り部の麗子、そして安楽椅子探偵型の執事・影山。特に目新しさは感じない設定である。

 プロローグを兼ねた第一話「殺人現場では靴をお脱ぎください」。面倒でこの被害者のようにしたことがある人は多いだろう。ふむ。第二話「殺しのワインはいかがでしょう」。えっ、そうだったっけ。この毒殺トリックは盲点だった。ふむふむ。

 第三話「綺麗な薔薇には殺意がございます」。……体を張った偽装工作を見抜かれた犯人。ふむふむふむ。第四話「花嫁は密室の中でございます」。密室物には抜け穴があるのがお約束。密室物というよりは、あれですねあれ。ふむふむふむふむ。

 第五話「二股にはお気をつけください」。埋められない「差」を埋めたのは、あるアイテムだった。なるほどおっ! …っていうか、飛躍しすぎだろうこれは。第六話「死者からの伝言をどうぞ」。安楽椅子探偵、最後に動く。麗子と影山の結束が、さらに強まった…のか?

 麗子と影山、あるいは麗子と風祭警部の掛け合いはそれなりに面白かったものの、本作の評価にはあまり影響しない。特筆することが特にないのが正直なところである。本格に馴染みがない読者でもお手軽に楽しめる作品ではあるだろう。

 人物造形よりも推理の部分で読ませてほしかったかなあ。安楽椅子探偵の宿命だが、影山の推理は飛躍気味で、合理的なようで物証に欠ける。特に第五話が顕著。しかし、発想の醍醐味を感じさせてくれたのも第五話だったのだ。



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