東川篤哉 14


中途半端な密室


2012/02/21

 嬉しい文庫オリジナルで刊行された東川篤哉さんの新刊は、5編中4編の初出が光文社文庫の一般公募アンソロジー『本格推理』となっている。石持浅海さん同様に、東川さんも『本格推理』でデビューの足がかりを掴んだのである。

 表題作「中途半端な密室」は、初掲載作品にしてなかなかのひねりである。連続暴行事件から話が飛んだと思ったら…。タイトル通り、現場は脱出しようと思えば脱出可能な状況であることがポイントだが、最後に構図が鮮やかに逆転するのがうまい。

 ここから4編は、岡山の大学に通う学生コンビ、七尾幹夫と山根敏が事件に挑む。

 「南の島の殺人」。悪友柏原から届いた手紙に綴られていた殺人事件。なぜか彼が滞在する島の名前は伏せられていた。そこは一体…。明かされてみれば何だよそりゃ。現場を隠すことで謎解きを成立させる手法は珍しいかもしれない。

 「竹と死体と」。古い新聞に載っていた小さな記事。だが、その状況はあまりにも特異だった…。謎自体は僕でも予想できたくらいだから、気づく人が多いだろう。この作品のうまい点は、ある有名な出来事とリンクさせていることにある。

 「十年の密室・十分の消失」。わははははは、来たよ来たよ、東川さんはデビュー前から壮大にして馬鹿馬鹿しいトリックを生み出していた。確かに、少年時代に雑誌でよく見ましたよ。それより、十年前の事件の真相の方が悲しすぎる…。最近起きたある事件を連想させる。両方に言えるのは、悪ふざけもほどほどにということ。

 最後の「有馬記念の冒険」は、本作中唯一プロデビュー後に書かれた作品。アリバイ崩しものとだけ書いておく。他愛ないといえば他愛ないが、本格というジャンルの今後を示唆している。現代社会を、本格にとって窮屈と見るか、それとも可能性の宝庫と見るか。

 東川さんの作家としての素養は、デビュー前から備わっていたことがわかるだろう。



東川篤哉著作リストに戻る