東野圭吾 01 | ||
放課後 |
本作で江戸川乱歩賞を受賞した当時、東野さんは会社員だった。会社の給料が安かったから応募した、とは東野さんの弁である。どこまで本気かはさて置き、それで受賞してしまうのだから、作家の卵たちが聞いたらやる気をなくしてしまいそうだ。この後、東野さんは専業作家となる。
私立清華女子高等学校に勤務する教師であり、アーチェリー部の顧問である前島。彼は感じていた。自分は命を狙われている。ある日、校内の更衣室で生徒指導の教師村橋が死んでいるのが発見された。死因は青酸中毒。犯人候補の生徒が続々と登場する中、運動会の仮装行列で第二の殺人が起きる。
本作を読んだ印象を一言で述べると、とにかく終始「醒めた」雰囲気に包まれている。前島を始めとする教師たちも、容疑者として挙げられる生徒たちも、あまりにもさばさばとしている。僕は読みながら思った。本作は本当に乱歩賞受賞作なのか?
それだけに、真犯人の殺人動機に対する驚きは大きい。純真な女子高生ならではの動機と言えるが、作者としてはかなりの勇気を要するのではないか。当時東野さんが若かったとはいえ、10歳ほども年下の少女の心理を描くのは、決して容易ではあるまい。
さらに、皮肉と言うしかないエンディングが、読者の驚きに追い討ちをかける。僕個人としては、トリックよりもはるかにやられたと思った。
また、アーチェリーという一般に馴染みのないスポーツを題材として取り上げたのが注目されるが、これには東野さんが大学時代アーチェリー部の主将を務めていた経験が活かされている。アーチェリーがいかに絵になるスポーツかが、よくわかる。
デビュー作にして、すべては緻密な計算の上に成り立っている。名作とまではいかないかもしれないが、本作を受賞作に選んだ選考委員の先見の明に、敬意を表したい。