東野圭吾 12 | ||
殺人現場は雲の上 |
『殺人現場は雲の上』と題されているが、もちろん機内で殺人事件なんか起きません、はい。ミステリーというジャンルは、「閉ざされた雪の山荘」では平気で連続殺人を起こすが、さすがに飛んでいる機内で殺人事件を起こすのは無理がある。少なくとも僕は実例を知らない。このタイトル考えた人出てきなさい。って、ご本人だったらどうしよう。
実は、本作は東野さんの短編集の中でも割と好きな一作である。しかし、刊行当時はともかく、現在では読み物としてあまりにもライトであることは否めない。単に「好き」と書けばいいのに、わざわざ「割と」を付けている時点で微妙である。こういう作品の感想を書くには、まず小ネタに走って文字数を稼ぐ(失礼)。絶版になっていないのは、東野作品全作読破を目指す方のために違いない(もっと失礼)。
じゃあ何が魅力なのかというと、キャラクターである。新日本航空に勤務するスチュワーデス(今はフライトアテンダント?)、通称エー子とビー子。二人が遭遇した事件の数々。
エー子は東京大学中退という経歴を持つ。試験はすべてダントツの成績で通過、訓練学校も首席で卒業。そして容姿端麗。主人公に据えたらかなり反感を買うキャラクターだろう。言っていることが違う? そこでビー子が出てくるのである。試験はすべてボーダー・ラインで通過、訓練学校ではビリ。でも至ってポジティブ。正反対な二人は不思議と馬が合う。
言うまでもなく、謎を解くのはエー子の仕事。でも、ビー子の存在はこの作品集の魅力の大部分を占めていると思うのである。東野作品に登場する女性キャラクターの中から最も好きな一人を選ぶとしたら、僕はビー子を選ぶ(これは本当)。「忘れ物にご注意ください」で見せる優しさはぐっとさせるじゃない。
結論は…強くお薦めはしませんが、飛行機で出張する機会のある方は、機内のお供にいかがでしょうか。エー子・ビー子という通称に作者の思い入れのほどがうかがえるのは、気のせいだろうきっと…。あ、ちゃんとお持ち帰りくださいね。