東野圭吾 15


宿命


2001/06/05

 文庫の解説を先に読む習慣のある方は、うっかり本作のラストの一行に目を通さないようご注意願いたい。読後の満足感が半減するし、確実に後悔するだろう。本作は、ラストの一行こそすべてと言っていいのだから。

 かつてライバルだった二人の男、和倉勇作と瓜生晃彦。小学校時代から、クラスのリーダー的存在だった勇作。しかし、勉強もスポーツも、何をやっても晃彦にだけは勝てなかった。そんな二人の関係は、その後もずっと続くが…。

 そして現在。日本有数の電機メーカーUR電産社長の御曹司である晃彦は、統和医科大で医師の道を歩んでいた。一方、事情から統和医科大進学を断念した勇作は、警察官となっていた。勇作は、ある殺人事件の捜査で十年ぶりに晃彦と再開する。

 くどくど書いてしまい申し訳ないが、これでも端折ったつもりなのでご容赦を。有体に言ってしまえば、本作はライバル物語である。勇作が一方的に晃彦をライバル視していたというのが正確だが…。ここまで勇作と晃彦の差が開くと、おいおいと言いたくもなるが、さらに晃彦の妻は勇作のかつての恋人だったとは。ああ、何てこったい…。

 これでは捜査に私情を挟むなというのは無理な注文である。ライバル関係に三角関係。そこに殺人事件も絡んでくるというフルコースだ。殺人事件の謎解きも手抜きは一切ないのだが、メインディッシュはやはり二人のライバル対決の行方だろう。やがて明らかになる、『宿命』の謎とは。ようやく打ち解ける、勇作と晃彦。

 最初から最後までできすぎなら、二人ともかっこつけすぎだな。しかし、こういう話に読者は弱いのよ。できすぎだっていいじゃないいじゃないいじゃない〜♪ ですか。

 これでもかというくらいドラマチックな展開は、すべてラストの一行を最大限に生かすため。ケチ臭いことは言わずに(僕が言っているか?)、これぞ東野作品の王道と言うべき一作を、あなたも是非味わってほしい。



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