東野圭吾 19


回廊亭の殺人


2006/02/02

 再読に当たり、僕が本作について記憶していたことは、主人公が老女に変装すること、本作が復讐譚であること、そしてラストシーンの鮮烈さである。

 32歳の桐生枝梨子は、70歳の老女本間菊代に変装して回廊亭を訪れた。半年前、同じ回廊亭で起きた心中事件の真相解明のために。回廊亭には、莫大な遺産を残した一ヶ原高顕の親族が集められ、遺言状が公開されることになっていた。

 主人公の枝梨子は、仕事は有能だが容姿にコンプレックスを抱えていた。男性読者としては実に困る設定である。会社での辛いエピソードに始まり、老女に変装するに至った経緯には同情するものの、感情移入には至らなかった。主人公の容姿が影響していることを告白しよう。僕は人格者ではない。会社の「あの人」を非難する権利はない。

 構成はなかなかに凝っている。読者には、主人公が変装していることが最初からわかっており、倒叙物のような雰囲気が漂う。ところが、枝梨子の復讐の前に、別の殺人事件が起きてしまう。復讐の機会をうかがいつつ、事件の謎も解かなければならない。老女を演じている枝梨子にとっては、目的を遂げる前に警察に介入されたのもやっかいだ。

 枝梨子の壮絶な事情は、現在の事件と並行して徐々に語られていく。それにしても気になるのは、老女に変装して騙し通すことが可能なのかということである。見た目だけではない、立ち居振る舞いや話し方まで老女らしくしなければならない。

 結局は変装している決定的な証拠を掴まれるわけだが、ここまで復讐心に燃えながら、ここまで周到に準備しながら詰めが甘すぎるのでは。枝梨子ほどの知性がありながら、なぜ思い至らなかったのか。復讐を前にして、絶体絶命…。

 それほど印象深い作品でもないので、結末が気になる方だけ読んでみてください。再読して改めて思ったが、映像化には打ってつけではないだろうか。



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