東野圭吾 20 | ||
交通警察の夜 |
本作は、タイトル通り交通事故をテーマにした短編集である。が、必ずしも交通捜査がメインになっているわけではない。文庫版は『天使の耳』に改題されているが、妥当な判断だろう。
率直な話、まったく交通違反をしたことがないドライバーは皆無だろう。違反切符を切られるか切られないか、ただそれだけの違いである。勝手なもので、マナーの悪いドライバーに限って、自分は事故になんか遭わないと高を括っているものである。誰でも、加害者にも被害者にもなり得るのに。
「天使の耳」で兄を亡くした盲目の少女。「分離帯」で夫を亡くした妻。当然ながら事故の相手を許せない二人。彼女たちの取った行動は、手段こそ違うが相手への報復に他ならない。報復が正しいとは思わないし、そんなことをしても故人が帰ってくるはずもないが…かと言って遺族の悲しみを癒す術はない。
「危険な若葉」や「捨てないで」に登場するような無謀なドライバーは、ばしばし取り締まってほしいものだ。自損事故を起こす分にはたとえ死亡しようと自業自得だが、他人を巻き込んでおきながら自分はのうのうとしているとは。しかし、食らったしっぺ返しはあまりにも大きかったね。
本作の一押しは、何と言っても「通りゃんせ」だろう。タイトルから想像がつくと思うが、最もポピュラーな交通違反がテーマだ。身に覚えのある人が多いのでは? かなり不幸なケースではあるが、甘えは禁物。最後の「鏡の中で」だけはちょっと疑問である。こんなの認めてしまっていいのか?
僕は毎朝自転車で通勤していて、「車は止まってくれないと思え」という結論に至っている。車が欲しいとは思っているんだけどね…。