東野圭吾 26 | ||
怪しい人びと |
光文社文庫の東野作品は総じて装丁が今一つなのだが、中でも本作は最も悪趣味だろう。タイトルをイメージしたつもりだろうか。せっかく面白いのに、カバーを見て買うのをやめる人がいたりして…。
装丁はともかく、内容は粒揃いの本作だが、ある一編のインパクトが他の各編を凌駕している。この一編だけでも読む価値がある。路線の近いものとして、「寝ていた女」という作品が収録されているが、まったく相手にならない。
その作品は「灯台にて」という。一人旅に出かけてたどり着いた、ある灯台。そこで起きた出来事とは…。灯台という舞台が不思議と相応しいと思えるのはなぜだろう。これぞ「怪しい人びと」だ。さあ、あなたもこのブラックユーモアの傑作を読んで、苦笑いをしてみよう。そして一人旅に出かけよう。目指すは灯台(嘘)。
一方で、まったく路線が異なる作品も収められている。「甘いはずなのに」は、いかにも東野さんらしいぐっと迫る作品だ。どちらが本来の東野さんなのか、この柔軟性には恐れ入る。夫婦の間のわだかまりが解ける話とだけ言っておこう。救いの手を差し伸べた老夫婦に出会わなかったら、どうなっていたのだろうか。
「もう一度コールしてくれ」のシニカルさも捨てがたい。ネタに触れない程度に述べると、かつて夢を追っていた男の哀れな末路を描いている。因縁の人物から告げられた真相とは…。長編のネタとしても使えそうだ。
「死んだら働けない」。そう、その通り。勤め人は体が資本。仕事熱心もほどほどにしないとね。と言ってしまうと言い訳にしか聞こえないか…。日頃お世話になっている業者の皆様には頭が下がります、はい。
全7編。まとまりがあるとは言えないが、この多彩さが東野さんの持ち味だ。