東野圭吾 27 | ||
むかし僕が死んだ家 |
本作は、僕が最初に読んだ東野作品である。数ある東野作品の中から本作を読んでみようと思ったきっかけは、その特異な設定にある。そして、何やら意味ありげなタイトル。当時、実際に書店に行ってみて、ずいぶんと著作が多い作家だなあと思ったものだが、その後全作を読むことになるとは。
中野という男と、その別れた恋人である沙也加。沙也加には、幼い頃の思い出が全然ないという。彼女の記憶を取り戻すべく、二人は山中にひっそりとたたずむ白い家を訪れた。そこで二人を待ち受ける真実とは…。
登場人物は、以上のたった二人。舞台は、ほぼ一貫して異国調の白い小さな家の中。これほど厳しい制約を課された作品を、他には思いつかない。舞台の限定という点では、綾辻行人さんの「館」シリーズが思い浮かぶ。しかし、この家は特殊な構造ではない。ましてや、たったの二人では殺人事件など起こしようがない。果たしてどのような物語が展開されるのか?
極めて限定された設定を補ったわけではないだろうが、最初から最後まで、これでもかというくらい伏線、伏線のオンパレードだ。もちろん東野さんのこと、無駄な伏線など何もない。すべては、悲しい過去へと収束していく。そして明らかになる、この奇妙な白い家が持つ意味は…それは読んで確かめてくれとしか言いようがない。詳しくは書けないのだが、近年社会問題化しているあることが背景にある。
解説の言葉を借りれば、本作は「一幕劇」である。このまま舞台の脚本として使えるんじゃないだろうか。映画化に適した(というより意識した)作品は数多い。しかし、急な場面の転換ができない舞台劇に、これほど打ってつけの作品はなかなかないだろう。
是非、登場人物が一人だけの作品にチャレンジしてほしいね。東野さんなら、芳醇な物語を展開できるはずだ。