東野圭吾 29


パラレルワールド・ラブストーリー


2000/09/09

 印象に残るラストシーンはあっても、印象に残るオープニングはあまりないように思う。そんな中、本作のオープニングは今でも鮮明に思い出される。連続ドラマにありがちかもしれないが、文章にすると不思議と新鮮である。オープニングとはいえネタには触れないでおくが、首都圏在住じゃない方には実感が湧かないかな。

 敦賀崇史は、中学時代からの親友三輪智彦に、恋人の津野麻由子を紹介される。崇史と智彦は、バイテック社の英才教育機関、MAC技科専門学校に籍を置くエリートだ。そのMACに、麻由子も送り込まれることになったという。崇史は智彦に嫉妬する。麻由子に横恋慕してしまう。そして…。

 バイテック社の中央研究所に正式配属されて二ヶ月。崇史はまだMACに在籍中の麻由子と一緒に暮らしていた。彼は、しばらく会っていない親友智彦のことをふと思い出す。あいつ、今何をしているんだっけ? 崇史の中で、現在と過去の記憶が交錯し始める。俺は一体、どうやって親友の恋人を手に入れたのだ?

 「パラレルワールド」とはよく言ったもので、崇史の現在と、MACで三人で過ごした過去の物語が並行して進む。対照的な学生時代を送った崇史と智彦だけに、あるハンディキャップを抱えた智彦にはあまりにも酷な展開である。ますます疑問が膨らむ、現在の崇史。極秘プロジェクトの裏に隠された真相とは…。お前はそれでも親友か、崇史? と言えるほど僕も人格者じゃないか。

 タイトル通りラブストーリーという側面はもちろんあるのだが、本当のテーマは別のところにある。それが何なのかは、読んで確かめてほしい。ラストシーンの受け止め方は人それぞれだろうし、必ずしも万人受けはしないだろう。僕に言えるのはただ一言。僕には智彦の真似は決してできない。達観しすぎだよ…。

 このようなシステムは、現在ではまだまだ想像の領域に属する。こんなシステムがあったらどんなに楽かと思う一方、もし実現されたらと思うとぞっとする。



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