東野圭吾 31 | ||
怪笑小説 |
東野さん初のお笑い短編集。東野圭吾は猫をかぶっていた、とは文庫版解説の真保裕一さんの言である。そう、東野さんには関西人の血が脈々と流れているのだ。全9編を収録しているが、僕が特に面白いと感じた作品に触れておこう。
まず、冒頭を飾る「鬱積電車」。よくわかるなあ、これは。毎朝通勤ラッシュに揉まれている方なら苦笑が漏れるに違いない。今ほど携帯電話が普及していない頃に書かれているので、「もしもしぃ」などと大声で話す姉ちゃんが登場しないのが残念である。
続く「おっかけバアさん」。僕にはおっかけをしている人の心理はわからないが、このバアさんの執念には鬼気迫るものがある。ジャニーズのおっかけだったらここまでブラックな作品にはできないだろう。
「一徹おやじ」。スポ根アニメの金字塔『巨人の星』を知っているかどうかで、笑えるかどうかが分かれるだろう。スポ根なんて言葉も完全に死語だろうなあ…。今から思えば、あれは実に良質のギャグであった。
「超たぬき理論」。UFOの正体はたぬきだったと主張する男。この馬鹿さ加減が最高。京極夏彦さんに多大な影響を与えた名作だ。オチといい、空山一平という主人公の名前といい、すべてが完璧だ。
「しかばね台分譲住宅」。これはツボにはまった。特に、郵便受けから〇が出ているシーン。立川志の輔さんが落語にアレンジしたそうだが、是非実写化を望む。それにしても、日本人はなぜか〇〇台や〇〇が丘という町名が好きである。
一方、「あるジーサンに線香を」というとても切ない作品も収録されていたりして。タイトルはある有名作品のもじりである。僕は読んだことがないが。
お笑い作家、東野圭吾ここにあり。感動なんか要らない。とくとご賞味あれ。