どちらかが彼女を殺した |
〜謎解き編〜 |
「園子以外の人間が無意識にした場合、明らかに本人とは違う痕跡が残る可能性があるもの」とは何か? それは睡眠薬の袋の破り方だろう。
殺害された康正の妹園子は、左利きである。しかし、包丁の右側に付いたコードの皮膜から、康正は自殺ではないことを見抜き、感電自殺に見せかけた人物が右利きであることを知った。
しかし、園子はナイフやフォークは右利きの人間と同じように扱うよう矯正していた。したがって、潤一も佳世子も園子が本当は左利きであることを知らなかった。一方で加賀刑事は、封筒の破り方やラケットのグリップテープの巻き方から、園子が左利きであることを知ったと思われる。
佳世子は康正に園子のマンションにおびき出され、康正の目の前で睡眠薬の袋を破り、服用する。その後の供述から、潤一が感電自殺の偽装を施しているところに、OL殺人事件に見せかけようとした佳世子が現れ、二人が鉢合わせしたことが判明する。真犯人は、一旦は計画を断念する。このとき潤一は、右手で睡眠薬の袋を破っている。
現場には、睡眠薬の袋が二つ残されていた。一つは潤一が右手で破ったものである。もし、犯行中止後に園子が目覚め、睡眠薬を飲んで感電自殺したのだとすれば、もう一つの袋は左手で破られていなければならない。
しかし、当初から利き手に着目していた加賀刑事は、自殺ではないと確信していた。このことから、現場に残された睡眠薬の袋は、実際には両方とも右手で破られていたことになる。
康正は、偽装自殺を施そうとしていた潤一が右利きであることを知っている。もし、佳世子も右利きならば、康正は真犯人を確定することができない。したがって、佳世子は左手で睡眠薬の袋を破り、それを見ていた康正は佳世子が左利きであることを知ったことになる。
以上より、改めて偽装自殺を施した真犯人は、佃潤一である。
補足しておくと、ノベルス版では、佳世子が左手で睡眠薬の袋を破った、とはっきり書かれている。文庫版ではこの箇所が削除されているので、背理法的に結論を導くしかない。また、園子の葬儀で佳世子が右手で記帳するシーンがあるが、園子と同様に佳世子も利き手を矯正していると考えられる。
園子の葬儀できれいな楷書で署名したとあるので、佳世子は書道を習っていたのではないか。書道は右手でするので、無理矢理矯正されたのではなく、書道の習慣で右手で字を書いたのではないか。というご指摘をいただきました。