私が彼を殺した

〜謎解き編〜

2001/05/16 改訂

 鼻炎薬に見せかけた毒入りカプセルを入手するチャンスは、三人全員にあった。その経緯については省略する。

 加賀刑事が最後に述べた、身元不明の指紋とは誰の指紋だろう?

 読み返してみた結果、それはピルケースに付いた穂高の前妻の指紋だと思われる。穂高が愛用していたピルケースは、前妻とペアで購入したものであるという。前妻が持っていたもう一つのピルケースを入手できた人物が、三人の中にいる。

 穂高が離婚した際に、穂高の前妻は彼との思い出の品をすべて送り返している。その中に、彼女のピルケースが含まれていても不思議ではない。それらの荷物は、穂高のマネージャー駿河直之が保管している。

 穂高の挙式当日に、雪笹香織はピルケースを穂高に渡すように駿河に頼む。駿河はピルケースを一旦ポケットに入れた後、ボーイを呼び止めてピルケースを渡す。この時、予め毒入りカプセルを仕込んだ穂高の前妻のピルケースとすり替えたと考えるのが、一番自然だろう。ポケットの中で素早くピルケースの中身をすり替えた可能性がゼロとは言えないが、ちょっと苦しいだろう。

 雪笹には、当日穂高のピルケースを手に取るチャンスがあったが、彼女の回想を信じるなら入れてはいない。駿河が主張するように、駿河がボーイにピルケースを渡した後に毒入りカプセルを入れるのも、挙動を見咎められる危険性が高い。それに、身元不明の指紋の説明がつかない。

 貴弘についても、彼がいつどうやって毒入りカプセルを混入したにしろ、身元不明の指紋を考えれば該当しないだろう。したがって、真犯人は駿河直之と考えられる。しかし、いくつか疑問も残る。

 駿河がピルケースそのものをすり替えたことにより、それ以前に穂高のピルケースに触れた人物の指紋が残らないという不自然さが生じる。だからといって、指紋を拭い取ってしまえばよけいに不自然である。駿河はそのことに思い至らなかったのか?

 また、貴弘は毒入りカプセルを合計3個入手している。まず、浪岡準子が置いていった2個を偶然に入手し、そのうち1個を猫に与えて効き目の確認をしている。挙式当日、脅迫状と共にさらに1個が送られてきた。貴弘が毒入りカプセルを入れたのは、脅迫状を受け取る前なのか、後なのか?

 貴弘が脅迫状を受け取った後、神林兄妹は控え室で二人きりになるが、美和子の証言を信用すれば貴弘にはピルケースに近づくチャンスはなかった。そうなると、貴弘は効き目の確認をした直後、美和子がお手洗いに行った隙に瓶に混入させ、たまたまそれを美和子がピルケースに入れたことになるが、あまりにも危険ではないか? 貴弘は雪笹と駿河の殺害計画は知らなかっただろうから、瓶に捜査の手が及ぶとは考えていなかったのかもしれないが。また、本当に脅迫状を受け取った後にはチャンスがなかったのだろうか?

 いずれにせよ、駿河がピルケースをすり替えようがすり替えまいが穂高は毒入りカプセルを服用する運命にあったことになり、何とも微妙なところではある。真犯人は貴弘になっていたかもしれないのだ。



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