東野圭吾 47 | ||
トキオ |
『トキオ』というタイトルから真っ先に思いつくのが、ジャニーズの某5人組だった方は僕より年代が下と思われる。一方、「TO〜KI〜O! TOKIOが空を飛ぶ〜♪」というジュリーこと沢田研二の大ヒットナンバーと、パラシュートを背負った衣装を思いついた方は僕と同年代かそれ以上だろう。僕は「お江戸」とかいうふざけたカバーが嫌いだ。
そんなことはさて置き、東野さんの新刊である。これぞ王道東野作品という中期の作品群に通じる仕上がりに、嬉しくなってしまった。
難病に冒され、息子の命は風前の灯火だった。そんな息子の時生(ときお)を前に、夫が初めて妻に語った若き日の秘話。舞台は1979年の浅草・花やしきに飛ぶ。
イントロを簡単に述べるとこんなところだが、これだけだと重苦しい話を想像するかもしれない。全体的には悲しい物語に違いない。だが、夫が語った若き日の物語はコミカルでもあり、ちょっぴり切なくもある。ピンチになると風車の矢七が駆けつける水戸黄門のように、笑いあり涙ありの大衆演芸のように、安心二重丸の楽しめる作品なのだ。
どんな仕事もさっぱり長続きせず、うだつの上がらない宮本拓実の前に現れた不思議な少年。二人は、書き置きを残して消えた拓実の彼女を追って大阪へ飛ぶ。タイトルは『トキオ』だが、物語の大部分は大阪で展開する。大阪は人情の街である(と僕は思っている)。当然のごとく力強い援軍が手を差し伸べる。本作は人情物なのだ。
大阪での追跡行と並行して、拓実の出生の秘密が徐々に明かされる。徹底して避ける拓実と、何とか直視させようとする少年。拓実は甘ちゃんだが、どこか真っ直ぐで憎めない奴である。そんな拓実より分別をわきまえているが、こちらも真っ直ぐな少年。真っ直ぐな二人が通じ合い、意地を張り合う。本作は人情物なのだ。
イントロでぐっときて、中盤でからっとして、結末にまたぐっとくる東野圭吾ならではの人情物。さすが大阪出身、浪花節だよ人生は。