東野圭吾 50 | ||
おれは非情勤 |
オリジナル文庫として刊行された東野圭吾さんの新刊である。収録作品の初出は何と学研の「5年の学習」「6年の学習」となっている。
解説によれば、初出当時、殺人だの浮気だのの話を出すとは何事じゃわれぇ! とPTAから抗議されたそうである。馬鹿げている。PTAのやることは昔から変わっていない。そういえば、最近『クレヨンしんちゃん』が子供に見せたくない番組第一位になったそうだ。馬鹿げている。負けるな『クレヨンしんちゃん』。
この当時の「学習・科学」の読者がうらやましいと僕は真剣に思う。僕が読んでいた頃の「学習・科学」に、こんな面白い読み物は載っていなかったのだから。僕に言わせりゃ文部科学省推薦、PTAお墨付きの読み物なんて教訓臭いだけでどこが面白いんじゃわれぇ! である。肝心の当時の読者の声を、是非聞いてみたい。
学校から学校へと渡り歩く非常勤講師の「おれ」が主人公のこのシリーズ。タイトルは『おれは非情勤』だが、誤植ではない。赴任先で起きる事件の数々を「おれ」が解決していくのだが、そこに子供社会の悲喜こもごもが密接に関わってくる。
本作の素晴らしいところは、対象が小学校高学年だからといって一切手抜きはしていないところにある。もちろん表現は平易で読みやすいし、重くなりすぎないような心遣いは感じる。だが、臭いものにはふたをしろ的な安易な発想に逃げていない。
タイトルとは裏腹に、「おれ」はなかなかの熱血漢だ。彼の言葉は決して難解ではなく、それでいて示唆に富む。「子供」だからと見下ろしてはいないから、すっと心に染みる。PTAはどうして殺人とか浮気とか表面的な部分にしか目を向けないのか。
追加収録されたシリーズ外作品もこれまた面白い。これら素敵な作品群を掲載に踏み切った学研に拍手。そして、紆余曲折を経つつも本作が刊行の運びとなったことを、一読者として喜ばずにはいられない。たったの500円で、楽しい時間が約束される。