東野圭吾 53 | ||
ちゃれんじ? |
私を夢中にさせているのは、上達、ということだと思う。
東野圭吾さんの新刊は、スノーボードをテーマとしたエッセイ集である。テーマからして読者を選ぶだろうと思っていた。実際、僕自身スノーボードに興味はないし、経験もない。東野作品でなければ手に取らなかったと断言できる。
結論から言おう。本作を読んでよかったと思っている。東野ファン以外に薦めるつもりはない。しかし、スノーボードに興味がない東野ファンは読んでみるべきである。
冒頭の一行は本文からの抜粋だが、これこそ本作が伝えたいことだと思う。たまたま東野さんがはまったからスノーボードがテーマになったが、他のスポーツでもいい。模型製作や楽器の演奏でもいい。何かに打ち込み、上達を実感できることは素敵だ。
運動音痴だった僕は、スポーツに取り組んで上達する喜びを知らなかった。どうせ無理だと最初から投げていた。こんな僕が、今はフットサルチームに入ってボールを蹴る喜びを味わっている。技術的にも年齢的にも、既に自分の限界はわかっている。それでも続けられるのは、たとえわずかでも上達を実感できるからではないか。
いや、心優しい仲間たちが「上達したね」と言ってくれるからその気になっているだけかもしれない。そう、東野さんも作中で述べていた。スポーツとの出会いは人との出会いでもある、と。「仲間」がいてこその「上達」なんだ。
それにしても、である。読書という趣味を、僕は何のために続けているのだろう。少なくとも「上達」のためではない。読解力が上がったなんてことはない。読めば読むほど、些細な欠点ばかりが目に付くようになる。どんどん純粋に楽しめなくなっていく。
結局のところ、飽きるとは挫折なのだ。
これだけは確かだ。人との出会いがあったから、今でも読書を続けていられる。