東野圭吾 70


プラチナデータ


2010/07/07

 『プラチナデータ』と題された、東野圭吾さんの待望の新刊だが、内容の方は残念ながらプラチナとは言えない。シルバーからブロンズというところか。

 時代が明記されていないが、近未来らしい。犯罪防止を目的としたDNA法案が国会で可決。合法的に国民のDNAのデータベース化を進め、現場に残された犯人のDNAと照合する。DNA鑑定は現在でも行われているが、個人を特定できるものではない。だが、この時代の技術では、容貌から性格に至るまで判明してしまう。

 必然的に、鑑識や聞き込みといった従来の捜査手法は大きく変わる。捜査員の仕事は、DNA捜査システムが弾き出した犯人を捕まえるだけ。ところが、検挙率が飛躍的に上がる中、システムに引っかからない犯人による連続殺人事件が発生した。

 近未来を舞台に管理社会の恐怖を描くというのは、映画や漫画、そしてSF小説でもよくあるパターンである。よほどの自信がなければ、使い古された感のあるこのテーマに挑もうとは思わないだろう。確かに、リーダビリティはさすがなのだが…。

 システムの開発に関わった神楽龍平は、ある特殊な事情を抱えていた。一応伏せてはおくが、これもネタとしてはありきたりである。ただでさえありきたりなテーマに、ありきたりのネタが組み合わされ、薄味になった感は否めない。究極の謎「人間の心」に迫る! と帯にはあるが、ありきたりだからこそ、どちらか一方を掘り下げるべきでは。

 個人的に、DNA捜査システムやそれに絡む陰謀よりも怖いと感じたのは、ある小さな機器である。実現可能性は極めて高そうだし、このネタで十分に長編が1本書けそうだ。本作のスパイスとして使うにはもったいなかったかもしれない。

 肝心の真相は、そんなことじゃないかと思ったら、やはりそうだった。この発想に近いことは現在でも何かしら行われているに違いないし、さもありなんという気はしたけれど…序盤から反則のオンパレードだっただけに、もっと予想を裏切ってほしかった。本作に驚けなかった背景には、僕自身の体制への諦観もあるかもしれない。



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