東野圭吾 74


真夏の方程式


2011/06/12

 加賀恭一郎シリーズと並ぶ東野圭吾さんの2大シリーズ、ガリレオシリーズの最新刊が到着した。本作は、シリーズ中でも色々な点で異質な1作と言える。

 両親の都合で、夏休みを伯母一家が経営する旅館「緑岩荘」で過ごすことになった少年・恭平。美しい海を誇る玻璃ヶ浦にあるその旅館に、帝都大准教授・湯川学が滞在することになった。湯川は、海底鉱物資源の開発計画の説明会に招かれていた。

 ところが翌朝、旅館近くの岩場で、もう一人の宿泊客・塚原の死体が発見された。一見転落死のようだが、塚原が警視庁捜査一課のOBだったことから、地元県警だけでなく警視庁も動き出す。そして判明した死因は、意外なものだった…。

 警視庁の特命で草薙刑事と内海薫刑事が捜査に乗り出す。というのも、現場に湯川が滞在しているから。例によって指示だけ出してくる湯川だが、2人とも問い詰めても無駄だと知っている。現場から離れた東京で、粛々と任務をこなす2人。が、あくまで管轄は地元県警である。表向きは協力姿勢ながら、情報を巡って駆け引きもする。

 「子供は論理的じゃない」と言ったあの湯川が、恭平君の宿題の面倒を見るのは実に意外。特に、玻璃ヶ浦の美しさを実証するある実験は、何て素敵なんだ。携帯電話を壊してしまうのはご愛嬌。もっとも、湯川は彼をちゃっかり利用するわけだが…。

 旅館経営者の川畑一家は東京から移住したのだが、16年前に東京で何かがあったらしい。環境保護活動にのめり込む、一人娘の成実の心中は…。かなり早い段階で、湯川には塚原の死の真相が見えていたのだろう。実際にこういう事例があるのは報道で耳にした。湯川が悩むのは、どうやって事件の幕を引くべきかなのだ。

 そこに塚原が行かなければ事件は起きなかったし、そこに湯川がいなければ事件は違う形で終わっていただろう。そういう点では不幸な偶然だったかもしれない。最後に湯川が語った真相は、薄々予想はできた。ある1点を除いて。

 本作に勝者も敗者もいないが、一つだけ断言できる。こんな卑怯者は許せない。



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