東野圭吾 77 | ||
ナミヤ雑貨店の奇蹟 |
ファンタジーっぽい作品は『トキオ』以来だろうか。東野圭吾さんの新刊の帯には、「一か八かの大勝負でした」とある。勝負の結果やいかに。
とある地方都市にあるナミヤ雑貨店は、悩み相談で知られていた。夜、悩みごとを書いた手紙をシャッターの郵便口から投げ込むと、翌朝には店の裏の牛乳箱に回答が入っているという。その評判は、当時週刊誌にも記事が掲載されるほどだった。やがて老店主の浪矢雄治が店を畳み、悩み相談は終わったはずだった。
『生協の白石さん』という本が大ヒットしたのはいつだったか。東京農工大学の生協に勤務する白石さんと、学生とのやりとりは、一言カードに収まる長さだが、本作でナミヤ雑貨店に寄せられたような質問に、白石さんならどう回答するだろう。
何を書いてもネタばれになりそうだし、予断を与えそうだなあ。タイトル通り、これは『奇蹟』である。つまり、出来すぎである。今こういう作品を出すのは、確かに大勝負と言える。しかし、出来すぎが鼻につかないのはさすがの筆の冴え。
回答者(とだけ書いておく)同様に、相談者の手紙には突っ込みたくなるだろう。結局は背中を押してほしいわけである。自己啓発書を読み漁る人の心理と同じ。何度かやり取りするうちに、相談者は勝手に救われている。正直、一つ一つのエピソードはちょっといい話でしかない。ビートルズネタ満載の第四章はツボにはまったが。
本作の面白さは、時代がバラバラな5つのエピソードが、読み終えると1つの輪のように繋がっていることにある。実に仕事が細かい。あるエピソードの主人公が、別のエピソードでは脇役としてスパイスになっている。こういう趣向は伊坂幸太郎さんが得意とするところだが、あまりユーモアを盛り込まない東野作品では新鮮な気がする。
『ナミヤ雑貨店』以外のキーワードを1つ挙げておこう。それは『丸光園』である。『丸光園』もまた、多くの子供たちを救ってきた。本作は、『丸光園の奇蹟』でもあるのだ。東野圭吾さんは大勝負に勝った。またしても完敗です。