五十嵐貴久 05


Fake


2009/12/15

 『このミステリーがすごい!』2005年版でひっそりと17位に入っていた本作を、そのうち読もうとずっと思っていたのだが、やや長いためになかなか手を出さずにいた。ようやく4作目の五十嵐貴久作品を読んでみて、さっさと読むべきだったと思った。

 本作はいわゆるコンゲームというジャンルに属する。簡単に言えば騙し合い。その言葉くらいは聞いたことがあったが、解説に挙げられたジェフリー・アーチャー著『百万ドルを取り返せ!』も映画『スティング』も知らない。本作を先達の作品と比較することはできないが、一つ納得できたことがある。コンゲーム小説は爽快でなければならない。

 零細興信所の調査員・宮本と、美貌の東大生・加奈は、実技は優れているが学力がからきしだめという浪人生・昌史を東京芸大に合格させるため、センター試験でカンニング作戦を実行する。しかし、実はそれは罠だった…。

 というカンニング作戦の顛末までがDoubt 1〜3に描かれる。この時点で約1/3。携帯電話を使ったカンニングの例は耳にするが、ここまでハイテク化するとは呆れると同時に苦笑した。高コストは度外視かよ。しかし、結局カンニングはカンニング。

 宮本は罠に嵌めた憎き相手への復讐に燃え、他のメンバーにも協力を要請する。罠に嵌められた理由や、復讐計画が語られるSting 1〜2までで約2/3。カンニング作戦だけでも十分無理があったが、復讐計画にはもっと無理がある。10億円のポーカー勝負を仕掛けようというのだ。しかも相手は、猜疑心の塊にして最強のギャンブラー沢田。

 詳しい経緯は読んでいただくとして、実際に沢田が経営するカジノに乗り込み、ポーカー勝負をするのは還暦を過ぎた西村。今どき貴重な堅物中の堅物である。それだけに、悪役としての沢田の嫌らしさが際立つ。じわじわと素人をなぶり、格の違いを見せつける沢田。この手に汗握る緊張感は素直に見事だ。果たして勝ち目はあるのか…。

 そして結末は。わははははは、そもそも勝負自体に無理があったのだから、ここは笑うのが正しい。完全に五十嵐さんに手玉に取られた。『ルパン三世』を見たと思えばいいのだ。あんな強奪作戦はくだらん、などと無粋なことを言う人はいないだろう。すべてはこの爽快感のためと考えれば、多少の無理には目を瞑ろうではないか。



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