稲見一良 01


ダブルオー・バック


2001/03/12

 本作が世に送り出された時点で、稲見一良さんは既に病魔に冒されていた。自分が生きた証として、生涯に一冊の本を。そんな思いを込めて書き上げたのが、デビュー作となる本作である。

 本作は、一つの銃を巡るオムニバス形式の短編集である。ポンプ・アクション6連発銃、ウィンチェスター・M12。この銃が人手を巡る過程で生み出された、四つの物語。そこに描かれた人間たちの生き様は、そのまま稲見さんの生き様でもある。

 第一話「オープン・シーズン」。特異な射撃フォームに固執し、みるみるトップの座から転落していった射撃選手。この痛々しいまでに哀しい短編は、実は力強い決意表明だったのではないか。今となっては確認しようがないが。

 第二話「斧」。東京を捨て山にこもった父親を、息子が訪ねてくる。父親は息子に、大自然に生きる術を授けていく。現在では稀な、父と息子のあり方がここにある。雛鳥は成長し、やがて巣立っていく…。

 第三話「アーリィタイムス・ドリーム」。悪徳養豚業者とヤミ金融業者を敵に回してしまったマスター。そんな後先考えない彼を慕い、店に集う若者たち。この結末には、思わず快哉を叫んだ。要するに勧善懲悪な話なのだが、この痛快さがたまらない。

 第四話「銃執るものの掟」。北の工作員と山中でばったり出くわした老猟師。生への執着を捨てないその姿勢は、まさに稲見さんそのもの。最後の台詞がじーんと響く。

 病魔と闘い続けた稲見さんの人生が色濃く反映された作品であるのは明白だが、悲壮感など微塵も感じられない。たくましく、雄々しく、清々しく、そして温かい。これほどの作品が、なぜ絶版なのだろう。現代人に必要なのは、きっとこんな作品だ。巷に溢れる啓蒙書の数々より、はるかに得るものがあるはずだ。



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