稲見一良 03


ダック・コール


2001/03/18

 事実上、絶版になっていない唯一の稲見作品である。本作は、石に鳥の絵を描く不思議な男と出会った青年が見た、六つの夢という設定になっている。各編のモチーフになっているのは鳥である。石に鳥を描くのは、稲見さんの趣味でもあったという。そんな稲見さんの人生経験が投影された、逸品揃いの作品集だ。

 第一話「望遠」における若者の選択を、世の勤め人はどう思うだろう。まずは一本。

 第二話「パッセンジャー」に描かれているのは、夢は夢でも悪夢だ。自然の驚異と人間の飽くなき欲望が織りなした、この世のものならぬ光景に目をみはる。

 第三話「密猟志願」は、中年男性と少年の交流を描いた、まさに夢のような一編。中年男性が稲見さんの執筆当時を、少年が過去を体現しているように感じたのは僕だけではあるまい。二人の痛快な冒険の後には、切ない結末が待っている。

 第四話「ホイッパーウィル」は、脱獄囚を追ってのマンハントという内容ながら、厳しさの中にも温かさが垣間見える。未だ見ぬ鳥に、顔も知らぬ脱獄囚に思いを馳せる日系人のケンが、追跡行の果てに目にしたものは。

 第五話「波の枕」は、夢中夢とでも言うべきか。血気盛んな漁師だった老人、源三の追憶。若かりし源三とユキのその後も気になるところだが、色々と深読みしてしまう。

 最後の第六話「デコイとブンタ」は、実に心憎い一編だ。個人的には本作中最も唸らされた。鳥の模造品であるデコイを語り部に据えるアイデアといい、ラストシーンといい、本作の最後を飾るに相応しい。

 解説でも述べている通り、特に語るべきこともない自分の人生が、ひどく乏しいものに思えてしまうのが難点といえば難点か。もちろん、それは逆恨みだと承知しているのだが。それほどまでに芳醇な作品集だ。



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